(3/31)
更新を休止しました。

(10/14)
「二軍コピペ」に新カテゴリ
「もぅマヂ無理」を追加しました。
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(8/12)
本日は更新をお休みさせて頂きます。
ご了承下さい。

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(6/18)
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(5/25)
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(5/6)
「ゴールデンウィークスペシャル」最後までお楽しみ頂けましたか?
次回の特別編成は夏頃を予定しております。ご期待下さい。
五月病は笑えるコピペを読んでサッパリ笑い飛ばしちゃいましょう!

(5/6)
ゴールデンウィークスペシャルもいよいよ今日がラスト!
最終日は管理人オススメ、2chの長編スレシリーズをたっぷりお楽しみ下さい!

(5/5)
ゴールデンウィークスペシャル三日目は特別編成恒例「洒落怖」!
各まとめサイトで殿堂入りを果たしたあの名作、この名作をお楽しみ下さい!

(5/4)
ゴールデンウィークスペシャル二日目は
真偽の程はともかく「ちょっぴりタメになるコピペ」をたっぷりご紹介致します!

(5/3)
今日から6日までの4日間は「ゴールデンウィークスペシャル」!
本日はネットで古くから愛されてきた名作コピペの祭典「古典祭 ~春の陣~」をお楽しみ下さい!

(4/22)
「あやぽんRSS」無事復旧のためヘッドラインを元に戻しました。

(3/4)
地味で暗い背景を何とかしようと模様替え()。ついでにテンプレも少々修復しました。
こういうリニューアルは4月頭にやるのがセオリーだと言うのに、一ヶ月も先走って改築してしまう洒落の利かない管理人なのであった。
ここはそういうクソのような人がやってるブログだと思って下さいませ。

(3/1)
RSS一覧を整理。

(2/24)
「二軍コピペ」に新カテゴリ
「くぅ~w」を追加。

(2/7)
メニューバーをリニューアルしました。
これでIEでの表示も問題なくなるかも…?

(2/2)
4ヶ月ぶりにトップ絵一新。
ブログ創立以来初のテキスト複合型トップ絵に無謀にも挑戦。
不具合等ありましたら至急連絡お願いします。

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    【長文注意】従姉に恋をした。【5】(最終章)


    【4】はこちら

    49 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:16:33.66 ID:V88tLildO
    「芽衣子さん。俺もねぇ…芽衣子さんに招待状を送れると思う。まだまだ先の話になると思うけど…」

    口をついて出た自分の言葉に照れ、俯いてしまった。
    芽衣子さんの声が1オクターブ高くなった。
    「ホントに!?…じゃあ…なのね?」
    「うん」
    「…よかったぁ…」
    ウンウンと、芽衣子さんは何度も頷いていた。
    お互いに、おめでとうと言い合った。

    3次会は辞退した。
    腕に絡まる友枝を芽衣子さんに押し付け、熱帯夜の街に出る。
    時刻は8時を回っていた。
    今一番聞きたい声を求めて、携帯を手にとった。
    「お疲れ様」
    ああ、恵子ちゃんの声だ。
    もう俺はメロメロだった。
    更なる欲求に引火する。
    「会いたい…なぁ」
    「会えるよ」
    事も無げに恵子ちゃんが言った。
    「今ね、健吾君の近くにいるの。友達と会ってたんだ。今、別れたから…」
    「すぐ来て!今来て!早く来て!」
    電話の向こうで恵子ちゃんが爆笑していた。
    「会いたい」と言えることに感動した。
    (“言える”関係になったんだ)
    改めて昨夜の喜びを反芻した。


    50 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:17:54.28 ID:V88tLildO
    指定した喫茶店には恵子ちゃんが先に到着していた。
    奥の席に座る恵子ちゃんに近づいていくと、自然に目が合った。
    お互いの顔がほころぶ。
    俺はどうしちまったのか。
    十代の時のような、ふわふわとした感覚。
    口にするのも恥ずかしい言葉が頭に浮かぶ。
    ときめき。

    落ち着いて、冷静に、衝動を抑えながら、恵子ちゃんの向かいに座った。
    「お疲れ様!」
    満面の笑みで俺を迎えてくれた恵子ちゃんの目線が、俺の顔から胸へと移動した。
    「そのお花、最初から差して行ったの?」
    「ん?ああ、違う違う(笑)もらったんだ、結婚式で」
    「ああ、そっか。なるほど(笑)」
    「ガラじゃないなって、思ったんだろ?(笑)」
    「うん(笑)」
    「(笑)メランポジウムって言ってたかな。ブーケに使った花だって」
    「へぇ」
    「…恵子ちゃん、これね」
    「ん?」
    「花嫁さんにもらったんだ」
    なぜか、きちんと話しておかなくてはと思った。
    「その花嫁さん、昔、俺が付き合ってた人なんだ」
    「転勤の時に見送りに来てた人?」
    「…憶えてた?」
    「うん」
    一瞬、場が凍りついたような気がして、慌てておどけた。
    「や、妬ける?」
    俺の馬鹿な質問に、恵子ちゃんは平然としていた。
    「ううん。全然」
    そして恵子ちゃんがニコリとして言った。
    「だって、これからは私が健吾君のとなりにいるんだもん」

    テーブルを飛び越え、恵子ちゃんに抱きつきたかった。
    だが代わりに憎まれ口を言って我慢した。
    「なぁんだ。つまんねーの(笑)」
    「御生憎様(笑)」

    その後一時間ほど、恵子ちゃんとのおしゃべりを楽しんだ。
    チラチラと時計を見出した俺に恵子ちゃんが言った。
    「まだ時間だいじょぶだよ。今日、車で来たし」
    「いや、二日連続で俺のせいで帰り遅くするのは…。守さんたちも心配するだろうし」
    伝票を持ってレジへと向かう。
    のそのそと恵子ちゃんが後に続く。
    視線を感じる。
    じーっと俺を見てる。
    なんとかかわして外に出た。
    「さて…帰ろっか」
    「やだ」
    間髪いれずに恵子ちゃんが遮った。
    ダダをこねるなんて珍しい。
    いや、初めてのことだ。


    51 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:19:06.07 ID:V88tLildO
    「やだって…そんな(笑)」
    「だって…」
    「だって今日、初めてのデートなんだよ?恋人同士になって初めての!」
    そっか。そうだった。
    言われてみればそうだった。
    恵子ちゃんが俺を見上げていた。
    その瞳の中、ネオンがくるくる廻る。

    2、3メートル先、隣の雑居ビルの非常階段まで恵子ちゃんの手を引いた。
    向き直り、ぎゅーっと抱きしめた。
    こんちくしょーめ、可愛いなぁ!
    俺の中で、ある考えが首をもたげた。
    「恵子ちゃん」
    「…ん」
    「やっぱり今日は帰ろう」
    「………」
    「その代わり」
    「?」
    「俺も恵子ちゃんの家に連れてって」
    腕の中で俯いていた恵子ちゃんが、がばっと顔を上げた。
    「んえっ!?」
    その滑稽な声と表情に、腹を抱えて笑ってしまった。
    「なに笑ってんのっ!?…ていうか、なに言ってんの!?」
    目頭と痛む腹を押さえ、動揺する恵子ちゃんをもう一度抱きしめた。
    「ちゃんとね…守さんたちに挨拶しときたいんだ。お付き合いさせてもらってます、って」
    「えっ!?いいよぉ、そんなの(笑)」
    「まだ早い?」
    「ううん、早いとかじゃなくて…。ウチの親、そんなに形式張ってないから、だいじょうぶだよ?」
    「俺がね、ちゃんとしときたいんだ」
    我ながら相変わらずアタマのカタイ奴だと思ったけれど、ほんの一拍の後、恵子ちゃんが頷いてくれた。

    恵子ちゃんの家までは高速で40分程度の道のり。
    ふと車窓を流れる街灯を見送りながら、俺は自分に起こっている変化に気づいた。
    なんだか恵子ちゃんとの会話に熱が入らない。
    会話がブツリブツリと途切れる。
    そのうち、押し黙ってしまった。
    この緊張はなんだ?
    まるで、結婚の挨拶に行く時のような…。
    馬鹿な。
    そんな大仰なものじゃないだろうに。
    何度も自分に言い聞かせたが、一度意識した心が、頭の命令に従うはずもなかった。


    52 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:20:43.00 ID:V88tLildO
    「はい。着きました、と」
    エンジンを止めた恵子ちゃんが、俺をまじまじと見つめている。
    右顔面にその視線を感じてはいたが、
    俺は彼女に向き直ることも出来ず、フロントウインドウに熱い視線を投げ続けた。
    「だいじょうぶ?」
    看破されていることにたじろぎ、うろたえ、虚勢をはった。
    「な、なにが!?…さ、さあ、行こう!」
    恵子ちゃんに一瞥もくれず、玄関へとまっすぐ進んだ。
    しかし…扉を開けられない。
    チャイムに手が伸びない。
    恵子ちゃんが一歩後ろで俺の様子を見ていた。
    振り向き、懇願した。
    「…ごめん、開けてぇ」
    恵子ちゃんが、手で口を押さえながら笑いをかみ殺している。
    彼女の気が済むまで俺は待った。

    ようやく笑いを終わらせてくれた恵子ちゃんが、ゴホンとひとつ咳払いをして扉を開けた。
    緊張復活。
    「ただいま~」
    出迎えたのは浩美さんだった。
    「あら、健吾君!?恵子を送ってくれたの?」
    「い、いえっ、運転してたのは恵子ちゃんで、あの、その」
    「とにかくあがって」
    もう堪えられないとばかりに恵子ちゃんが吹いた。
    ちょっと恵子ちゃんが小憎らしくなった。

    居間に通され、茶を出された。
    石像のように固まっている俺を見て、相変わらず恵子ちゃんは肩を震わせている。
    浩美さんが台所に行った隙に、軽く恵子ちゃんの首を絞めてやった。
    またも恵子ちゃんが吹き出した。
    そこへ、風呂上りの守さんが姿を現した。
    「おお、健吾君!よく来たよく来た!」
    「す、すみません、またこんな遅くまで恵子ちゃんを引っ張りまわしてしまい…」
    「うんうん。これからも誘ってやってね」
    「は、はい。もちろんです…」
    沈黙には到底耐えられそうにない。
    俺は矢継ぎ早に言葉を続けた。
    「それで…あ、あの俺、恵子ちゃんとお付き合いさせていただきたくて…今日…来ました」
    伏せていた目を恐る恐る上げ、守さんと浩美さんを見た。
    ふたりともキョトンとしていた。
    「え…いや、ずっと前から付き合ってたんじゃないの?」
    守さんの言葉に驚いた。
    口から何かが出ちゃうんじゃないかと思った。


    53 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:22:12.50 ID:V88tLildO
    「いやぁ、てっきりそうなんじゃないかと思ってたんだけど。
     でもふたりの口からちゃんと聞くまでは、余計な口は挟まないようにしようって、私ら話してたんだよ」
    「え…いえ、正式には昨日からで…」
    「ああ、そう!そうかぁ、そうなのかぁ」
    守さんと浩美さんが微笑みを交わしていた。
    「これからもよろしくね、健吾君」
    すぐには頭の整理がつかず、恵子ちゃんを見た。
    あんぐりと恵子ちゃんは口を開け、呆けていた。
    俺の視線に気づき、恵子ちゃんも俺を見る。
    ふたりの口に笑みが浮かび、やがて大笑いした。
    (やった!やった!やった!)
    ひとりだったら、踊り狂っていたと思う。
    守さんも浩美さんもしきりに泊まることを勧めてくれたが、丁重にお断りした。
    かろうじて電車もあったし、なにより『厚かましいヤツ』と思われたくなかった。
    守さんたちがそんな人たちではないことはよくわかっていたが、少しでも良い印象を与えたかったのだ。
    相変わらず些細なことを気にするヤツだった。
    再び恵子ちゃんの車に乗り、駅に向かう。
    車が走り出すと同時に、ふたりとも口を揃えて言った。
    「…びっくりしたねぇ」
    また笑い合った。
    落ち着き、余裕を取り戻した頭が考えた。
    (あのまま…“結婚を前提に”って言っても、よかったんじゃないだろうか?)
    …いやいや、いくらなんでもそれはまだ早いな。
    恵子ちゃんの気持ちもあるし。
    心の中でかぶりを振っていたら、恵子ちゃんがまた俺の心を見透かした。
    「なんだか…結婚の挨拶みたいだったねぇ(笑)」
    驚き、恵子ちゃんを見る。
    俺の視線に照れたのか、自分の言ったことに照れたのか、恵子ちゃんはあわてて顔を右ななめ前方へと向けた。
    そのさまに俺までも照れてしまい、俺も左ななめ前に顔を向けた。
    倦怠期のカップルのように、互いに別の方向を眺めるふたり。
    しばし間をおき、振り絞る。
    「でも……いつか、…いや………いずれは…」
    そうなったらいいなぁ…と、言葉を続けようとしたが、
    「ま、まぁ、先のことはわからないし……恵子ちゃんも…恵子ちゃんが…よければ…」
    歯切れの悪い言葉が続く。

    だが恵子ちゃんの一言が、終止符を打った。


    54 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:23:27.83 ID:V88tLildO
     
    「早く結婚してくれ(笑)」

    首がねじ切れるほどの勢いで恵子ちゃんを見た。
    彼女は相変わらず明後日の方向を向いている。
    「ほ、ほら、私も若くないし…もうすぐ35歳だし…
     あ、ほら35って、四捨五入すると40なんだよぉ…だから…だから…」
    慌てて取り繕った言葉に、恵子ちゃんの照れが見えた。
    こみあげる、今日、何度目かわからない高揚感。

    「恵子ちゃん、車止めて」
    なぜ?とも聞かず、言われるまま恵子ちゃんは車を路肩へと止めた。
    止まるや否や、いまだにそっぽを向いている恵子ちゃんの顎に、そっと手を添えた。

    くるりと彼女が俺に向いた。
    刹那。彼女のくちびるは俺のものに。俺のくちびるは彼女のものになった。
    ゆっくりと、長く。呼吸など無ければいい。そうは思ったが、限界もある。
    磁石を引き剥がすかのように離れた。
    彼女の口から吐息がもれた。
    たまらず、またくちびるを寄せた。
    …結局、3回それを繰り返し、4回目にはふたりで笑い出した。
    「俺って、しつこいなぁ(笑)」
    「私も…しつこいよ」
    5回目は恵子ちゃんのほうからだった。

    シフトレバーをはさんだ無理な体勢で抱き合っていた。
    心とは裏腹に、無理矢理、身体を離してお互いの席に戻った。
    と、膝に花びらが一枚落ちた。
    見ると胸のメランポジウムがぐったりしていた。
    抜き取り、恵子ちゃんの小さな手のひらに置いた。
    「あげる」
    「ありがとお」
    恵子ちゃんが両手で花を包んだ。
    「…明日、帰っちゃうんだよねぇ」
    「うん」
    「…あーあ…」
    「近いうちにまた帰ってくるから」
    「…うん、待ってる。でも無理しちゃダメだよ?」
    「ありがと」
    「私も今度そっちに行くから!健吾君の住んでるトコ、見たい」
    「いっぱい、見せたいものがあるよ」
    「楽しみだな~」
    無理して明るく振舞う恵子ちゃんがとてもいじらしかった。
    身体が壊れてしまわないように、力加減をして抱きしめるのはとても難しかった。
    「明日、見送り行くね」
    腕の中の恵子ちゃんの声はか細かった。


    55 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:24:41.80 ID:V88tLildO
    翌日。太田家での朝食の席で、昨晩田中家に挨拶に行ったことを報告した。
    お父さんも母も、微笑みながら俺の報告を聞いてくれた。
    よろこぶふたりの顔を見て、自分が満ち足りていることを、温かなメシと一緒に噛みしめた。

    いつものようにお父さんの車で駅へと向かった。
    駅に着くなり、ふたりには悪いが早々に帰ってもらう。
    恵子ちゃんが待っているのだ。
    秘密にする必要はないが、やっぱりまだ照れくさかった。
    駅ビルの喫茶店で恵子ちゃんと落ち合った。
    今日も笑顔で俺を迎えた恵子ちゃんだったが、時折、少しだけ浮かない表情を見せた。
    (俺と離れるのが辛いのかな?…んもう、愛いやつめ)などと気を良くし、恵子ちゃんの手を握る。
    (え…?)
    その手の熱さに驚いた。
    「恵子ちゃん!熱あるんじゃないか!?」
    「あ、ちがうのコレ。薬の副作用」
    耳の薬を飲むと一時的に熱や軽い頭痛が起こるのだという。
    「今日は朝ごはんの時に飲むの忘れちゃったから、ついさっき飲んだの。
     だいじょうぶ。あと30分もすれば収まるから」
    眉が八の字になっているのに、精一杯の笑顔で俺に答えている。
    これまで病気で辛そうにしている恵子ちゃんを見たことなどなかった。
    もしかしたら、俺の前で我慢していたこともあったのかもしれない。
    そう思うと、とにかく何かしてあげたくなった。
    だから彼女のソファに並んで座った。
    「俺に寄りかかってなよ」
    よくファミレスなどで当人たちしかいないのに並んで座っているカップルを見ると、
    (バッカじゃねーの)などと胸の中で悪態をついていたものだが、この時は自分も馬鹿のひとりになった。
    髪を撫でるたびに恥ずかしさは消えた。
    案外、こういうのも悪くないな。
    …いや、けっこう好きかも。


    56 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:25:43.92 ID:V88tLildO
    すっかり元気を取り戻した恵子ちゃんはホームまでついてきてくれた。
    列車がホームに入ってくるまで15分。相変わらずこの時間はイヤなものだ。
    芽衣子さんとの時にも味わった、やるせない、切ない気持ち。
    それを誤魔化そうと話し続けても、浮かぶ言葉は虚ろで他愛のないものだけだった。
    ふと見ると恵子ちゃんは無言で俯いていた。
    あ、と思い、「だいじょうぶ?また具合悪くなった?」と、彼女の顔を覗き込んだ。
    泣いてた。
    初めて見る、恵子ちゃんの泣き顔。
    言葉も出ず見つめた。
    「さみしいの。さみしいの」
    感情が加速していくのが見て取れた。
    「ごめんね…ごめんね…」
    嗚咽まじりに何度も謝る恵子ちゃんを抱き寄せた。
    彼女の震えを止めてあげたくて腕に力をこめた。
    新幹線のデッキに乗り込んでからも、恵子ちゃんの手を放せなかった。

    このまま、かっさらってしまおうか?
    簡単なことだ。
    この腕を引くだけ。
    しかし未練を断ち切ったのは恵子ちゃんのほうからだった。
    絡めた指をほどき、バイバイとその手を振る。
    かろうじての笑顔。
    言葉はない。
    ドン、と無慈悲な音を立ててドアが閉まった。
    あわてて小窓から恵子ちゃんを探す。
    彼女の顔はまたクシャクシャになっていた。

    そんな顔しないでくれ。
    こっちまでつられてしまうじゃないか。
    なんてことない。
    しばしの別れなのだ。
    自分に言い聞かせ、笑顔で彼女に手を振った。


    57 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:27:59.30 ID:V88tLildO
    横浜に戻ったその日の晩、恵子ちゃんからメールが来た。

    「無事に着いたかな?昼間はごめんね。突然泣いたりして。
     いい歳して自分でも呆れます(笑)健吾君と離れるかと思ったら、急にさみしくなってしまったの。
     でも今はだいぶ落ち着きました。
     今とても健吾君の声を聞きたいけれど、聞いたらまた泣いてしまいそうなので、
     今日はメールだけで我慢します。電話しちゃやだよ?(笑)」



    俺も自信がないよ。
    きっととんでもないことを口走ってしまいそうだもの。
    なんとかメールだけにした。
    5回も6回も送ったが。

    仕事が無い日は夜に電話を、夜勤の日は昼間にメールをした。
    毎日、彼女の声や文字に触れた。
    仕事が忙しくても苦にならなかった。
    短気な性格なのに腹を立てることがなくなった。
    せっかちな性格なのに駆け込み乗車もしなくなった。
    毎晩のように、良い夢ばかり見た。
    気づくといつも笑顔だった。

    「作品できたの!」
    その日の恵子ちゃんの声はいつにも増して弾んでいた。
    毎年4月に開催される書展の作品が仕上がったのだという。

    「ずいぶん早く完成したんだね~」
    「うん!びっくりするほど筆がすすんで。今までで最高傑作だと思う。もちろん自分の中でだけど(笑)」
    「へぇ。今回の題材は?」
    「んー…内緒(笑)」
    「なんじゃそりゃ(笑)」
    「知りたかったら、来年一緒に観に行くこと!」
    「そりゃ絶対行けるようにするけど…なんだよ、気になるなぁ」
    「健吾君」
    「ん?」
    「ありがとう」
    「?なにが?」
    「あのね、今回の作品つくってる時、心がすごく落ち着いてたの。
     今まで無いくらいに。それはね、きっと健吾君のおかげなんだと思う」
    「俺、なんかした?」
    「ううん。なんにもしてない(笑)」
    「ワケわかんねぇ(笑)」
    俺も君にお礼が言いたかったんだ。
    俺は毎日、笑顔でいられるよ。
    そんな照れ臭いこと言えやしなくて、別の話題に入った。
    「9月になったらそっち帰るね」
    「だいじょうぶなの?」
    「うん、休みとる。デートしよう。ちゃんとしたデート(笑)」
    「うん!(笑)」
    「できれば8月中にもう1回くらい帰りたかったけど、仕事忙しくて…ごめんな」
    「ううん!うれしい」
    その後はあれこれとふたりでデートの予定をたてた。
    気づけば電話は4時間にも及び、ふたりとも惜しみつつ受話器を置いた。


    58 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:29:21.85 ID:V88tLildO
    9月といえば恵子ちゃんの誕生日でもあった。
    8月最後の休日、プレゼントを物色しに街に出かけた。
    恋人へのプレゼントほど選んでいて楽しいものはない。
    何を贈ったら彼女は喜ぶだろう。
    自分の物を買うよりもウキウキする。
    何軒もの店を巡った。

    喫茶店で手早く昼食を済ませ、再び物色しに歩き出した時だった。
    アクセサリーショップが目に止まった。
    リングのいっぱい詰まったショーケースに引き寄せられる。
    「そちらはエンゲージリングに最適ですよ」
    俺の心を見透かしたかのように女性店員が言う。
    エンゲージリング。
    その言葉を意識した時、他の何物もプレゼントとして考えられなくなった。
    食い入るように何分、何十分もケースを見つめた。

    子供の頃に見たCMが頭に浮かぶ。
    黒人の少年が雨の中、ショーケースの中のトランペットを見つめるCM。
    たしかクレジットカードのCMだったか。
    ふと、財布の中のクレジットカードを思い出した。
    今はなんのローンも抱えてはいない。
    (買えるな、コレ)
    0がいくつも並ぶ値札。
    その数が増えるほど恵子ちゃんの笑顔が増えるような、そんな馬鹿な錯覚を覚えた。
    さっきから何度も声をかけてきた女性店員を手招いた。
    嬉々とした顔で店員は駆け寄ってきた。
    「サイズのお直しは後日でも結構ですので」
    店員に愛想良く見送られ、店を後にした。

    右手に提げた品の良い紙袋に何度も目を落としながら、まっすぐ家路についた。
    家に着くなりバタバタと晩飯を済ませた。
    風呂はカラスの行水。
    髪を乾かすのもそっちのけ。
    小さな化粧箱をテーブルにのせ、なぜか正座。
    ゆっくりとリボンを解く。
    指紋が消えるほどきれいに洗った指で、震えるほどやさしく指輪をつまんだ。
    買ってしまった。
    思わずニンマリとした。
    渡す時のシチュエーションに思いを巡らし、楽しい妄想に何時間も浸った。
    我ながら性急かなと、ちらと思ったりもした。
    しかし、あらゆる事どもにいつも必要以上に悩む俺が、コレを勢いで買った
    (どれにしようか悩みはしたが)
    その勢いが俺の気持ち。
    それだけで十分。
    確信と自信が漲った。


    59 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:32:17.65 ID:V88tLildO
    9月9日 金曜日 午後11時過ぎ。
    恵子ちゃんとのデートまで一週間と迫った夜。
    夜勤明けのその日、夕方から床に就いていた俺は1本の電話で起こされた。
    母からだった。

    「恵子ちゃんが倒れて、病院に運ばれたそうなの」
    母の声は落ち着いていた。

    それは、俺にも落ち着けと言っているようだった。
    「とりあえず守さんからそのことだけ連絡がきたんだけど、状況がよくわからないの。
     詳しいことがわかったらすぐ連絡するからね?いい?」
    わかってる。わかってる。だいじょうぶ。だいじょうぶ。
    冷静に自分の言っていることを反復した。

    10分。
    20分。
    30分。
    電話はぴくりとも声をあげない。

    この間、何をすべきか考えることもなく、自然に身体が動いた。
    まるでこれから会社にでも行くように、歯を磨き、髪を整えた。
    0時。あらかじめセットしていた目覚まし時計が鳴った。
    それが徒競走の合図でもあるかのように、俺は携帯と車のカギを握り締め、外に飛び出た。

    車で故郷に向かうのは初めてのことだった。
    なんとか高速道路に乗り、記憶をたどりながらひた走った。
    家を出て1時間も経った頃、携帯が鳴った。
    お父さんだった。
    「今、向かってますから」
    「そうか。とりあえず、状況を説明するね」
    恵子ちゃんが倒れたのは午後9時頃。風呂の脱衣所で。
    医者の診断はくも膜下出血。
    現在、集中治療室で手術中。
    お父さんの言葉のひとつひとつが、まるで新聞の見出し文字のように頭に入ってきた。
    「私達も今、病院にいるから」
    恵子ちゃんの家から少し離れた市立病院だった。
    そこで初めて、病院がどこかも知らずに家を飛び出したのに気づいた。


    60 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:33:59.78 ID:V88tLildO
    5時間ほどで病院に着いた。
    当直の看護師に案内され、集中治療室へと向かう。
    治療室の前、長椅子に守さんと浩美さん、お父さんと母が座っていた。
    「来てくれてありがとう」と、守さんと浩美さんが力なく、それでも笑顔で言った。
    手術は未だ続いていた。
    守さんに話を聞いた。
    仕事から帰ってきた時、恵子ちゃんはいたって普通だったそうだ。
    それが食後、頭痛を訴えた。
    恵子ちゃん自身も、守さんたちも、それは耳の薬のせいだと気にも留めなかったという。
    そして恵子ちゃんは倒れた。
    皆、言葉もなく、時が経つのをひたすら待った。
    夜が明けた。
    沈黙を守っていた治療室の扉が、拍子抜けするほど軽薄な音をたてて開いた。
    一斉に立ち上がった俺たちを、出てきた医者が別室へと誘った。
    医者の説明には守さんの希望で俺たちも同席した。
    手術は無事に済んだ。
    やはりくも膜下出血だという。
    この時、初めてこの病気に対する知識を得た。
    この病気は、脳を取り巻く動脈に“動脈瘤”というコブができ、それが破裂してしまうことだそうだ。
    高血圧だったり、乱れた生活を送っていたり、疲れやストレスが原因になり得ると医者は言った。
    だがそのどれもが恵子ちゃんには該当しなかった。
    「遺伝的なものかもしれません」
    医者の言葉に守さんが頷いた。
    田中の一族には何人も脳の病気を患った人がいるそうだ。
    そして最後に医者は言った。
    24時間以内に再破裂の恐れがあり、そしてそれはかなりの高確率だと。
    再破裂したら、その先は…。
    誰もその質問を口に出すことはなかった。


    61 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:35:16.00 ID:V88tLildO
    集中治療室には誰も入れてもらえなかった。
    当然といえば当然の対応なのに、俺は理不尽な怒りを覚えていた。
    憔悴しきった4人に仮眠をとることを勧め、俺はひとり治療室の前に残った。
    時折り開く扉の隙間から室内を覗ったが、様々な機材が俺と恵子ちゃんを隔てていた。
    こういった場面ではよく「どれほど時が経ったのだろう」などと、時間の感覚を失くすようだが、
    そんなことは俺には微塵もなかった。
    壁に掛かった時計と共に、冷徹なほど、時を認識し続けた。

    昼。ただ時計の針を追うだけの時間に終わりが来た。
    何かが起こったのはすぐにわかった。
    滅多に開かなかった治療室の扉が、目まぐるしく、せわしなく、医者や看護師を吸い込んでいく。
    知らせを受けた守さんたちが駆けてきた。
    30分後。治療室の扉がやっと俺たちを招き入れてくれた。
    物々しい機械に囲まれたベッドに、恵子ちゃんが横たわっていた。
    浩美さんが恵子ちゃんの身体に覆い被さった。
    その傍らで守さんが立ちすくんだ。
    お父さんと母も立ち尽くしていた。
    数分後、医者がなにか説明を始めていた。
    だがそれは、俺にとってなんの意味もない説明だった。


    恵子ちゃんはもう、笑わない。


    62 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:36:27.39 ID:V88tLildO
    守さんが看護師と“今後”について相談を始めていた。
    母は浩美さんに付き添っていた。
    お父さんは俺の肩を抱き、俺は彼に導かれるまま治療室の外に出た。
    ふたりで喫煙所に行った。
    ジュースの自販機があった。
    ジーパンのポケットを弄り、気づいた。
    (あ、サイフ忘れてら)
    いいよ、とお父さんがコインを出し、俺にコーヒーを買ってくれた。
    熱いコーヒーが腹に流れ落ちていく。
    今日初めて口にした食物だった。

    「だいじょうぶ?」
    タバコを差し出しながらお父さんが言った。
    銜えると、すかさず火を点けてくれた。
    これも今日初めての喫煙。
    旨かった。驚くほど。

    そのことに自分の精神状態を推し量った。
    「だいじょうぶです」
    自分では力強く言ったつもりだった。

    夕方。
    電話で職場の先輩に事情を説明した。

    恵子ちゃんとの関係を知る由もないのだが、先輩は気を遣ってくれ、
    あらかじめとっていた来週末の休みまで続けて休めるよう、手配をしてくれた。
    ほどなくして、お父さんたちが手配した葬儀屋が、恵子ちゃんを葬儀場へと運んでいった。
    俺も車で随伴した。

    式場に着くなり、守さんとお父さんは葬儀屋と打ち合わせに入った。
    何か手伝いをと申し出たが、守さんもお父さんも「休んでて」と気を遣ってくれた。
    何かしてなければ恵子ちゃんのことばかり考えてしまう、そう思っていたが、頭の中は空っぽだった。
    駆けつけた親戚の人たちと交わした言葉も、すべて頭を素通りした。


    63 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:37:42.35 ID:V88tLildO
    一時間ほど経った頃。
    することも、考えることもなく喫煙所に入り浸っていた俺の元に母がやってきた。
    「今、湯灌が終わったの。浩美さんが呼んでるから来て」
    母に案内され、湯灌室へ。
    まるで診察台のような飾り気の無いベッドの傍らに、浩美さんが立っていた。
    その顔が見れない。
    ベッドも見れない。

    虚空に視線を漂わせていたら、浩美さんが言った。
    「健吾君、お願いがあるの」
    顔を上げた。
    「恵子に、服を着せてあげてほしいの」

    「はい」
    膝に力を入れ、ベッドへと近づいた。
    浩美さんが覆っていた白い布をまくった。
    起きている時と少しも違わぬ恵子ちゃんが、そこにいた。
    胸には下着をつけ、腰にはサラシが巻かれている。
    鼻や耳には脱脂綿が詰められ、なんだか息苦しそうだった。
    澄んだ白い肌には一点の生気の欠片すら残っていないはずなのに、触れれば恥ずかしがる恵子ちゃんを感じた。
    首と肩を右手で支え、半身を起こした。

    こんなに軽いものなのか。
    俺の顎のすぐ下にあの日束の間の愛撫を重ねた恵子ちゃんの小さなくちびるがあった。
    浩美さんが白い着物を差し出しながら、手伝おうと手を伸ばしてきた。

    「ひとりでやらせてもらえませんか」
    浩美さんは頷いてくれた。
    恵子ちゃんを胸に抱き、虚脱した四肢を着物に通していった。
    身体を動かすたびに、きつい薬品の匂いが鼻をかすめ、
    大好きだったアリュールの香りは今はもう残り香すらしない。

    手を握った。
    肩を抱いた。
    顔に触れた。
    着せ終わった恵子ちゃんをいつまでも抱いていたかった。
    浩美さんが「ありがとう」と言った。
    その言葉がすべてに終わりを告げているように感じた。

    棺に入れる遺品を用意するため、浩美さんと母が家に帰った。
    今夜は守さんとお父さんと俺が、恵子ちゃんの側にいてあげることになった。

    すっかり夜も更けた頃、寝酒にとお父さんが酒を用意してくれた。
    守さんも付き合い、三人で淡々と飲んだ。
    ほとんど会話もない酒盛りだったが、酔いなどまわろうはずもなかった。
    そろそろ寝ようかと、ふたりが式場内の寝室に引揚げた。

    俺は恵子ちゃんの元へ向かった。
    恵子ちゃんが眠っている部屋は、通夜の場ともなる広間だった。
    飾られ煌々と照らされた祭壇前。
    聞こえるはずのない恵子ちゃんの寝息を探し、静かな彼女の寝顔を見続ける。
    もう、いいんだぞ。
    だが俺の目は期待を裏切り、沈黙していた。


    64 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:38:38.28 ID:V88tLildO
    翌日。
    葬儀の雑用で日中を慌しく過ごし、あっという間に通夜を迎えた。
    読経の最中だった。

    突然、守さんが泣き出した。
    ウオオオとも、ウアアアともつかない、激しい慟哭だった。
    俺は守さんを羨ましく思った。
    蚊取り線香のように螺旋状になった線香。
    朝までもつというこの線香が寝ずの番を不要としていたが、
    それでも恵子ちゃんの側にいたかったから、俺は線香を点け続けた。

    深夜1時をまわった頃だったか。
    皆寝静まり、俺ひとりだけとなった祭壇の前に、最年長の従兄・勲夫さんが現れた。
    「恵子と付き合ってたんだってね」
    酒を酌み交わしながら勲夫さんが言った。
    「あの子は、従妹というより妹みたいなもんだったんだ。
     だから、健吾君と付き合ってるって聞いた時、俺もすごく嬉しかったんだよ」

    祭壇を眺める勲夫さんの右目から、涙が筋をつくった。
    「よかったよ。あいつに…最後に大切な人ができて」
    飲んだ酒がそのまま出てきているかのように、勲夫さんの目は乾くことを忘れていた。
    勲夫さんが寝室に引き上げた。
    またひとりとなった部屋で、俺はゴロンと寝転んだ。
    “男は人前で泣くべきではない”

    子供の頃からの親父の教え。
    頑なに、なぜ守っているのか。俺の身体は。そんなにも深く、刻み込まれているというのか。その言葉は。
    恵子ちゃんのために泣くことが、彼女への手向けとなるはずなのに。

    泣け。泣けよ、俺。


    65 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:39:58.08 ID:V88tLildO
    いつのまに眠っていたのか。早朝、守さんに起こされた。
    「側にいてくれてありがとう」
    守さんの言葉が、まるで恵子ちゃんの言葉のように聞こえた。
    午後からの葬儀、俺は受付を買って出た。
    参列はしたくない。
    理由はわからなかったが、ただその一心だった。
    守さんは了承してくれた。

    勲夫さんから借りたサイズの合わない喪服を身につけ、ふたりで受付に立った。
    多くの人が記帳していき、やがて恵子ちゃんの会社の人たちが訪れた。
    その一団の中、ひとりの男性が目についた。
    その男性は、止め処なく溢れる涙を必死に拭っていた。
    彼は…きっと、彼だ。
    直感が決めつけた。
    覚束ない筆遣いで書かれた彼の名。
    もちろん見覚えなどないその名前に視線を落とし、俺は彼の姿を決して見ようとはしなかった。

    葬儀が始まった。
    静まり返った受付の席にじっと座る。
    訪れる者はなかった。
    かすかに聞こえる読経に耳をすませながら、俺は恵子ちゃんを思い浮かべた。
    何度も何度も、繰り返し繰り返し。
    そうすることによって、無理矢理に感情を呼び起こそうとしていた。
    華奢な背中。
    屈託のない笑顔。
    俺を見上げる瞳。
    何かをささやく小さなくちびる。
    そして、別れ際に見た泣き顔。
    頭の中を恵子ちゃんが舞う。
    だが、それだけだった。

    どうして、守さんや勲夫さんや“彼”のようにできないんだろう?
    ひょっとして俺は、まだ現実を認識できていないのか?
    動かなくなった彼女に触れただろ?
    まだ無意識に我慢してるのか?
    それとも、単に冷たい男なのか?
    それとも。それとも。それとも。

    「お別れよ。お花を手向けてあげなさい」
    母の声が俺を現実に引き戻した。
    葬儀は終わっていた。

    他の参列者はすでに終わっていて、俺と勲夫さんだけとなっていた。
    それぞれ恵子ちゃんの左右にまわり、オレンジ色の花をそっと顔の近くに置いた。
    じっとその顔を見つめる。
    どんなに生きているかのように化粧が施されていても、動かず、表情もなく、ただそこにあるだけの存在。
    眠そうに目をこすりながら、『おはよう!』と笑いかけてくる、そんな気配はもう消え失せていた。
    棺に蓋が被せられた。

    参列者が一打ち一打ち、一本一本、釘を打ち付けていく。
    蓋の小窓が閉じられようとしていた。
    そこからのぞくものを決して目に焼き付けないように、俺は視線を逸らした。


    66 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:41:02.25 ID:V88tLildO
    冷たい、ねずみ色の鉄の蓋。
    読経の中、俺の目はそこ一点に釘付けになった。

    火葬。
    あの向こう側に、恵子ちゃんがいる。
    恵子ちゃんが、焼かれている。
    恵子ちゃんが、消えていく。
    突然のことだった。
    奥歯が鳴った。
    加速する鼓動と連動しているかのように。足が、一歩、また一歩と前に踏み出した。
    俺が憶えているのはここまでだった。

    開いた目に、母の顔が飛び込んできた。
    「だいじょうぶ?だいじょうぶ?」
    泣き顔だった。
    周囲に視線をめぐらす。
    十畳ほどの和室。
    そこに床が延べられ、俺は寝かされていた。
    そこは火葬場の控え室だった。
    「大変だったのよ」
    一生懸命、涙を拭いながら、俺の身に起きたことを母が話してくれた。

    俺は突然、叫び出したという。
    そして意味不明な言葉を発しながら、閉ざされた焼却炉の扉を叩き始めた。
    あまりの異常さに驚いたお父さんや従兄たちが、俺の身体を制した。
    俺は激しくそれに抗い、そして十数秒後、ヘナヘナと失神してしまったそうだ。
    俄かに信じ難い話だったが、掛け布団をめくって愕然とした。
    ズボンを穿いていなかった。
    驚き、白黒させた目に、見覚えのない真新しい下着が映った。
    気を失った俺は、失禁していたそうだ。

    「本当に…気でも違ったのかと思ったんだから」
    せっかく拭った母の頬がまた濡れていた。
    首筋から頭のてっぺんまで寒気が走った。
    羞恥心とは違う、得体の知れない感情に戸惑いながら、俺は母の泣く姿を呆然と見つめた。


    67 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:42:07.63 ID:V88tLildO
    控え室に明かりが灯り、時刻が夜であることを告げた。
    すでに火葬は終わり、ほとんどの参列者が帰っていたが、
    お父さんや母、弟妹たち、守さん夫婦、それに勲夫さんが帰らず残っていた。
    俺を気遣ってのことだった。

    「だいじょうぶかい?病院に行ったほうがよくないかい?」
    皆、口々にそう言って心配してくれたが、別段、身体に異常は感じなかった。

    それよりも気になっていたことを尋ねた。
    「あの…恵子ちゃんは?」
    勲夫さんが俯き加減に目配せをした。
    部屋の片隅、即席の祭壇に、冗談とも思えるくらい小さくなった恵子ちゃんがいた。

    母の用意してくれたジャージに着替え、恵子ちゃんの前に正座した。
    線香に火をつける。
    静かに手を合わせ、目を閉じた。
    一切の静寂が、恵子ちゃんと俺を包んだ。
    語りかけるべき言葉も思い浮かばず、自分に苛立つ時間だけが過ぎた。
    俺は断念し、目を開けた。
    目の前に鎮座する、白く、小さな四角い箱。
    君は、そこにいるの?
    しゃべるはずもない箱に、心の中で問いかけた。

    翌日、俺は熱を出して寝込んでしまった。
    母は会社を休み、看病してくれた。
    「ゆっくり休んでいきなさい」
    母の言葉がありがたかった。
    今、ひとりになるのは、辛い。
    怖い。
    熱は三日間続いたが、四日目の朝にはすっかり復調した。
    「もうだいじょうぶだから」
    心配そうにしている母を会社に送り出した。
    まだまだ日差しの強い縁側に座り、ぼーっと外の空気に触れた。

    昼。
    用意されていたお粥を腹に流し込んでいたら、電話がかかってきた。
    守さんだった。
    「身体の調子はどお?」
    寝込んでいたこの三日間、守さんは毎日電話をくれたと、母に聞いていた。

    「すみません、ご心配をおかけして。もう、だいじょうぶです」
    「そうか…よかった」
    本来なら俺のほうが守さんたちを気にかけなければいけないのに…。
    ありがたい気持ちと申し訳ない気持ちが胸を締め付けた。

    「健吾君、いつ横浜に帰るの?」
    「休みは日曜日までなので…明日か明後日には帰ろうかと思ってます」
    「そうか。なら帰る時でかまわないから、ウチに寄ってもらってもいいかな?」
    「ええ、かまいませんけど…」
    「渡したいものがあるんだ」
    「なんです?」
    「恵子の手紙を見つけたんだ。健吾君宛ての」


    68 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:43:56.03 ID:V88tLildO
    手紙…?
    恵子ちゃんからの?
    「あの…今からお邪魔してもいいですか?」
    「別にかまわないけど…だいじょうぶなのかい?無理しちゃダメだよ?」

    守さんの気遣いを他所に、俺はただちに家を出た。
    気持ちが急いて仕方ない。
    それでも普段よりゆっくりと運転するよう心がけ、一時間半ほどかけて守さんの家に着いた。

    浩美さんも在宅していて、ふたりで俺を迎えてくれた。
    やつれた顔で明るく振舞うふたりは痛々しかった。
    俺も無理矢理、笑顔を作った。
    恵子ちゃんの元へ案内された。
    型通りに線香を手向け、手を合わせた。
    相変わらず、箱は何も語らなかった。

    居間に通され、茶を出された。
    それに口をつけるのもそこそこに、守さんに目で促す。
    守さんは黙って頷き、件の手紙を差し出した。

    桜色の小さな封筒。
    表に“健吾君へ”という文字。

    俯きながら浩美さんが言った。
    「今日ね、恵子の部屋の整理、始めようと思ったの。でも…途中でやめちゃった。
     あの子の物を触ってたら、まだそのままにしておきたくなって…」

    当然だろう。
    遺品の整理をすることが、心の整理につながるとは限らない。
    いや、心の整理がつかないからこそ、遺品も整理できないのかもしれない。

    「今はまだ…そのままでいいんじゃないですか」
    「そうよね。まだ…いいよね」
    顔を上げた浩美さんは、許しを得たかのようにほっとした顔をしていた。

    「私らのことは気にしないで。早く帰って、読んであげて」
    俺の気持ちを察してくれたのか、守さんがやさしく言ってくれた。
    俺は深く頭を下げ、その場を辞去した。

    車の運転がもどかしい。
    早く。早く。
    しかし俺の邪魔をするように道はどんどん混み始め、とうとう高速のインターの手前で渋滞にハマった。
    タバコをくわえ、イライラしながらハンドルを何度も叩く。
    もう、その辺に車を止めてしまおうか。
    なにも家に帰ってからじゃなくてもいいんだ。
    そう思い始めた時、バックミラーに遠くの山々が映った。
    (そうだ。あそこに行こう)
    それはバーベキューの時に行った、恵子ちゃんのお気に入りの場所。
    俺はすぐさま渋滞の列から抜け出し、Uターンした。


    69 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:44:54.81 ID:V88tLildO
    川原の土手に車を止め、車外へと躍り出る。
    封筒を握り締め、あの日恵子ちゃんと歩いた森の小道を駆けた。
    緑は数瞬で流れ去り、あっという間にあの滝が目に飛び込んできた。
    乱れた息を整えながら、あの時ふたりで座った岩に腰を下ろす。
    と、背後に人の気配を感じ振り向いた。

    今日は先客がいたようだ。
    小学生くらいの男の子がふたり。
    ほんの少しの間、彼らは俺を見つめ、やがて興味を失ったのか、また遊びに戻っていった。
    封筒に視線を落とす。

    一呼吸。
    二呼吸。
    そして最後にもう一呼吸。
    そうして心を落ち着け、封筒を開封した。
    ふわっと、アリュールの香りが鼻先を漂った。
    封筒と同じ桜色の便箋が2枚。

    そこには俺が愛した、しなやかで美しい文字が詰まっていた。


    70 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:48:53.65 ID:V88tLildO
     

    『健吾君へ 今度のデートの時に渡そうと、この手紙を書いています。

     いつもおちゃらけてばっかりいる私だから、こんな手紙を書くと健吾君はきっと笑うだろうけれど、
     今日はガマンしてね。私の素直な気持ちです。
     健吾君、ありがとう。いつも笑わせてくれて。いつも話を聞いてくれて。いつも励ましてくれて。
     いつも心配してくれて。いつも素敵な言葉をくれて。いつも、私を幸せな気分にしてくれて。ありがとう。
     でも私は、その何分の1でもお返しできていますか?

     最近思ったの。私は健吾君からもらうばっかりで、何ひとつお返しできていないんじゃないかって。
     つき合う前の、もうずっと昔のこと。
     健吾君は言ったね。「俺は親戚とか少ないからみんなと親戚になれてうれしい」って。
     そしてその言葉どおり、健吾君は今までいつも、私やイトコ、親戚たちに優しく接してくれたね。
     私たちを、大事にしてくれたね。

     私はそれがすごくうれしかったけれど、反面、こう思ったの。
     健吾君はずっと、さみしかったんじゃないかって。
     健吾君はいつも堂々としていて、言葉も力強くて…

     私はそんな健吾君をいつも“すごいなぁ”って思いながら見てきました。
     でもいつだったか健吾君がご両親の話をしたとき、いつもと違う健吾君を感じたの。
     健吾君が、泣いてるような気がしたの。
     健吾君はあまり詳しくは話してくれなかったけれど、きっと辛い体験をしたんだね。

     そのとき私は何も言えなかった。何もできなかった。
     はじめて健吾君の心に近づけた気がしたのに、どうしたらいいかわからなかった。
     私が勝手に感じたことだし、気のせいかもしれないけれど、

     でもこれからは、さみしいと感じたとき思い出して。
     私はいつでも、健吾君の横にいます。私はずっと、健吾君の手をにぎっています。

     健吾君 愛してます

     2005.8.21 恵子』




    恵子ちゃんからの、最初で最後のラブレターだった。



    71 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:50:20.39 ID:V88tLildO
    ドボン、ドボンと、先程の子供たちが滝壺に飛び込んでいる。
    大きな水しぶき。
    楽しげな嬌声。
    入れ代わり、立ち代わり。

    咄嗟に口を手で押さえた。
    そんなことをせずとも、彼らには聞こえなかったかもしれない。
    俺は泣いた。


    あれから二ヶ月。
    俺は俺の日常に戻った。

    時折、無性に腹が立つ。
    君という大事な要素を欠いているのに、この世界は変わらず機能しているから。
    いつもと同じ朝。
    いつもと同じ夜。
    まるで君を忘れてしまったかのような世界。

    でも俺は、この世界のそこかしこで、君を感じている。
    職場に君と同じロングヘアの女の子がいる。
    その後姿が君を思わせるから、見るたびいつも視線をはずしてしまうけれど、ついついもう一度見てしまう。

    通勤電車でアリュールの香りがした。
    香りの主を探してキョロキョロしたんだけど見つからなかった。

    でも、それでもあきらめられなくて、電車を降りるのをためらった。
    本屋に行くと必ず、君からもらった本を探す。
    そして見つけては安心し、指でそっとなぞる。
    見つからないと落ち着かなくて、ただそれだけのために別の本屋に行ってしまう。


    いなくなった君に、ずっと恋をしている。
    『早く結婚してくれ』と、君は言ったね。

    見たかったなぁ。
    あの時君は、どんな顔をして、その言葉を言ったんだい?

    毎日のように俺は、その顔を想像してる。
    そしていつのまにかその顔が、俺が思い出す君の顔になってしまった。
    君の願いは、俺の願いでした。



    恵子ちゃん。さよなら。



    従姉に恋をした。 終

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