(3/31)
更新を休止しました。

(10/14)
「二軍コピペ」に新カテゴリ
「もぅマヂ無理」を追加しました。
(8/21)
アクセスランキング・人気記事ランキングをリニューアル。現在調整中につきもう暫くお待ち下さい。

(8/12)
本日は更新をお休みさせて頂きます。
ご了承下さい。

(7/1)
トップ絵・壁紙をリニューアル。
「怖いコピペ」に新カテゴリ
「ロミオ・勘助」を追加しました。

(6/18)
副管理人・副々管理人のプロフィールを追加しました。

(5/25)
一部フォントを変更しました。

(5/6)
「ゴールデンウィークスペシャル」最後までお楽しみ頂けましたか?
次回の特別編成は夏頃を予定しております。ご期待下さい。
五月病は笑えるコピペを読んでサッパリ笑い飛ばしちゃいましょう!

(5/6)
ゴールデンウィークスペシャルもいよいよ今日がラスト!
最終日は管理人オススメ、2chの長編スレシリーズをたっぷりお楽しみ下さい!

(5/5)
ゴールデンウィークスペシャル三日目は特別編成恒例「洒落怖」!
各まとめサイトで殿堂入りを果たしたあの名作、この名作をお楽しみ下さい!

(5/4)
ゴールデンウィークスペシャル二日目は
真偽の程はともかく「ちょっぴりタメになるコピペ」をたっぷりご紹介致します!

(5/3)
今日から6日までの4日間は「ゴールデンウィークスペシャル」!
本日はネットで古くから愛されてきた名作コピペの祭典「古典祭 ~春の陣~」をお楽しみ下さい!

(4/22)
「あやぽんRSS」無事復旧のためヘッドラインを元に戻しました。

(3/4)
地味で暗い背景を何とかしようと模様替え()。ついでにテンプレも少々修復しました。
こういうリニューアルは4月頭にやるのがセオリーだと言うのに、一ヶ月も先走って改築してしまう洒落の利かない管理人なのであった。
ここはそういうクソのような人がやってるブログだと思って下さいませ。

(3/1)
RSS一覧を整理。

(2/24)
「二軍コピペ」に新カテゴリ
「くぅ~w」を追加。

(2/7)
メニューバーをリニューアルしました。
これでIEでの表示も問題なくなるかも…?

(2/2)
4ヶ月ぶりにトップ絵一新。
ブログ創立以来初のテキスト複合型トップ絵に無謀にも挑戦。
不具合等ありましたら至急連絡お願いします。

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    【長文注意】従姉に恋をした。【4】


    【3】はこちら


    33 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 05:55:26.43 ID:V88tLildO
    渋滞に巻き込まれながら太田家に帰り着いた時には陽はとっぷりと暮れていた。
    さすがにみんな疲れていたため飲み直す気はなく、三々五々、各々の部屋で休息をとることとなった。
    俺は身体に染み付いたバーベキュー臭を洗い流そうと、風呂をつかった。
    身体だけはさっぱりとし、居間に戻ると母が座っていた。
    「お茶、飲む?」
    「ん。もらうよ」
    「今日はお疲れさん」
    「ホント疲れた(笑)でも楽しかったよ」
    「守さんと盛り上がってたね」
    「あんまり飲めないのに付き合わせちゃって、悪いことしたよ」
    「よろこんでたよ」
    「ならいいけど」
    「アンタがいなくなってた時、突然ガバッと起きだして『健吾どこだ~』って騒いでた」
    「マジで?あはは」
    「気にいられたね」
    「だったらうれしいね」
    「恵子ちゃんのこと、好きなの?」
    はい、とお茶を差し出しながら、流れるように母が聞いてきた。

    「…なんで?」
    視線をTVに固定したまま、平静を装った。
    焦点はぼやけていた。
    「なんとなく。今日のアンタ見てたらそんな気がしたの」
    もはや言い逃れることも、取り繕うことも、俺自身が許さなかった。
    「…うん。好き、だ」
    まっすぐに母を見た。
    「そう」
    「うん」
    「いつから?」
    「ずっと、前から」
    母の表情に変化はなかった。
    「お父さん(実父)は、知ってるの?」
    「いや、言ってない」
    「そう…」

    ふたりのお茶が冷めていく。
    母の目の光が強くなった。
    「恵子ちゃんには伝えたの?」
    「…ううん…」
    光がしぼんだ。
    顔を伏せた母の声が小さくなった。
    「私たちのこと…考えたから…なのね?」
    「………」

    廊下を踏む足音がした。
    誰かが起きてきたのだろう。
    「考えさせてたのね…ずっと」
    消え入るような声だった。

    明くる朝、帰りの身支度を整え居間に下りると、母はすでに仕事に出た後だった。
    結局、母はあれ以上なにも言わなかった。
    (なんか…言ってほしかったな)
    賛成にせよ反対にせよ、何かしら母の言葉が欲しかった。
    賛成ならば感謝した。
    反対ならば説得した。
    昨日、絶好のタイミングを逃してしまった俺は、情けないが俺を後押しする何かを求めていた。


    34 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 05:58:08.88 ID:V88tLildO
    駅まで俺を送るために、お父さんが起きてきた。
    玄関へ行き、靴を履く。
    と、靴の中に何かが入っていた。
    『健吾様』と書かれた小さな封筒だった。
    お父さんに見つからないよう、あわててポケットに閉まった。
    駅に着くと新幹線の時間にはまだ間があった。
    お父さんは発車時間まで付き合うと言ってくれたが、二日酔いで辛そうだったのですぐに帰ってもらった。
    なにより、封筒を早く開けたくて仕方ない気持ちもあった。
    手近な喫茶店に入り、荒々しく封筒を破った。
    中には母からの手紙が入っていた。

    『健吾様 あなたの気持ちを聞き、とても悲しく思いました。
     それはあなたが恵子ちゃんを好きだということにではありません。
     あなたが私やお父さんのことを考え、恵子ちゃんへの気持ちを我慢していたことにです。
     あなたには子供の頃から負担ばかりかけてしまいました。経済的にも、精神的にも。
     あなたは私たちの前では決して顔にも態度にも出さなかったけれど、
     心の中ではとても辛い思いをしてきたのだと思います。
     欲しいものも買わず、友達との付き合いも控え、あなたはいつも笑顔でいてくれました。
     ごめんなさい。甘えてしまってごめんなさい。
     でもその上、恵子ちゃんへの気持ちまで押し殺してきたなんて。
     私は自分が情けなくて仕方ない。
     いつだったか、あなたと恵子ちゃんが結婚したら、なんて話をした時、
     あなたの態度から私は冗談だと思っていました。
     あなたの本当の気持ちに気づきませんでした。
     本当にごめんなさい。あなたにそんな考えを抱かせてしまって。
     でもね。親というものは子供の幸せを第一に考えるものなのです。
     いつもあなたに迷惑ばかりかけてしまい、親として失格な私でも、いつまでもあなたの親でありたい、
     そう思っています。

     こんなことを言える資格はないけれど、あなたがうれしいと、幸せだと思える決断をしてください。
     あなたが決めたことは、きっと私にとってもうれしいことだと思っています』



    冷めた紅茶に一口も口をつけず、何度も読み返した。
    母の手書きの文字に、胸がいっぱいになった。


    35 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 05:59:31.88 ID:V88tLildO
    時間となり、新幹線に乗り込む。
    発車後、何分か経った時、恵子ちゃんの実家の近くが車窓に映った。
    (親父も…そう言ってくれるだろうか…)
    様々な感情が綯い交ぜとなっていたが、向いている方向はひとつだった。
    横浜に戻ると友枝から結婚式の招待状が届いていた。
    (順調だな)
    並び立つふたりの姿を微笑ましく思い浮かべながら、今夜の仕事のために身支度を整える。
    家を出、近所のポストに返信葉書を投函した。
    もちろん、“出席”にマルをして。

    7月。
    結婚式に出席するため、職場に休暇申請を出した。式は8月に入ってすぐ。
    お盆休みを避けた日程だったため、許可はすんなり下りた。
    一週間の休み。
    目的は結婚式と…もうひとつ。
    俺は親父に電話を入れた。
    「ずいぶんとご無沙汰じゃないか、おい!この薄情者!!」
    親父の声は弾んでいた。
    「いつも電話を返さなくてごめんな」
    「ん、若いうちはそんなもんだ。気にすんな」
    「8月、帰省するよ。そん時、メシでも食わないか?」
    「おお!わかった!待ってるぞ!」
    …自分の都合だけで連絡をとったりとらなかったり。
    親父のうれしそうな声に罪悪感を覚えた。
    そして8月はすぐにやってきた。

    考えてみると、俺は新幹線の中でいつも考え事をしている。
    今日のテーマは“親父への告白”。
    恵子ちゃんのことを、親父に打ち明ける。
    …でも、なんて言ったらいいんだろ。
    いや、ストレートに言えばいいじゃないか。
    ああ、こんなに悩むんなら電話で話した時に言えばよかった。
    いや、こういう大事なことは、会って、顔を合わせて言わないと。
    でも、親父の顔を見ながら言えるのか?
    そしてなんて言えばいいんだよ?
    …エンドレス。


    36 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:00:51.09 ID:V88tLildO
    太田家ではお父さんと母と義妹が俺を迎えてくれた。
    いつものように和やかな宴会。
    母もいつもどおりの笑顔だった。
    お開きとなり、義妹が帰った。
    お父さんは珍しく酔い潰れてしまった。
    寝室に連れて行き、母の片付けを手伝う。
    食器を運び、台所の母にバトンタッチする。
    ふと手を休め、母の背中に言った。
    「明日、親父に会うよ」
    洗い物を続けながら、母が顔だけをこちらに向けた。
    「そう」
    笑顔だった。
    「うん」
    本当は『ありがとう』と言いたかったのだが、片付けに戻った。

    翌日の夜、親父に指定されていた店へ向かった。
    そこは親父のアパートから程近くにある小料理屋。
    中年夫婦だけで切り盛りしているこじんまりとした店で、よく親父が晩飯に利用していた。
    俺も2~3度、一緒に来たことがある。
    (ここなら落ち着いて話ができるな)
    親父は仕事で少し遅れていた。
    カウンターで持て余していた俺に、顔を憶えていてくれた旦那さんがビールとつまみを出してくれた。
    今日は暑かったからビールが美味い!
    …はずなのだが、冷たいだけで味がしない。
    俺は緊張していた。
    この期に及んでもまだ、これからの行動に自信が持てなかった。
    ほどなく親父がやってきた。
    俺の姿を認めるや、ニコニコとした笑顔で向かってくる。
    俺は顔を背けた。
    「大将!奥、いいかい?」
    旦那さんの快諾を得、カウンターから奥の小上りへと移動した。
    「女将さん、憶えてるかな?俺の息子。今、東京で働いてるんだ」
    オーダーをとりにきた女将さんに、嬉々として、誇らしげに俺の話をする親父。
    (年とったなぁ…)
    アーノルド・シュワルツェネッガーのような筋骨隆々の体躯は今も変わらないが、
    頭髪はきれいに銀髪になっていた。
    顔に刻み込まれたシワが、笑顔と共に一層目立った。
    この笑顔が消えてしまうかもしれない話。
    俺は今からそれをする。
    くじけそうになる気持ちを、必死にささえた。
    いつになく饒舌な親父と酒を酌み交わしつつ、二時間が過ぎた。


    37 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:01:59.50 ID:V88tLildO
    …未だ切り出せない。
    だが突破口は他ならぬ親父が開いてくれた。
    「この間、千夏と陽子から電話がきてなぁ」
    千夏・陽子とは、亜矢(実妹)の娘たちのことだ。
    「子供の日にオモチャ送ったから、その礼の電話だったんだけど」
    親父の目尻は下がりまくっていた。
    「年に一度くらいしか会わない俺に、じいちゃん、じいちゃん、ってなぁ」
    「かわいいな」
    「ああ…かわいい。…だけど、ちょっとさみしくなってしまった」
    「なかなか会えないからか?」
    「距離の問題じゃなくてな…所詮、あの子たちは他所様の内孫だ。
     会いたくても、おいそれと頻繁に会うってわけにもいかないから、さ」
    「そんなに遠慮しなくてもいいじゃんか。親父にとっても孫なんだから」
    「そういうもんなのさ」
    「ふーん」
    「だからお前に期待してんだよ、俺は(笑)」
    「ん?」
    「いつになったら俺は内孫持てるんだ?(笑)」
    「孫って…その前に嫁さん見つけなきゃいけないだろが」
    「そうだよ、それだよ。見つけたのか?」
    「………」
    「なんだよ、浮いた話のひとつもないのか?」
    「………あるよ」
    「おお!?やっとこさ彼女できたか!!」
    「いや、彼女ってわけじゃ…。ただ…好きな人がいるんだ」
    降ってわいたキッカケに俺は飛びついた。
    思いつくまま、恵子ちゃんのことを語った。
    彼女との出会い。
    彼女の人となり。
    彼女に告白されたこと。
    それを無碍にしたこと。
    そして、彼女が母の縁者であること。
    何もかもを素直に、ありのまま、夢中でしゃべった。

    気がつくと、親父はじっと下を見つめながら黙りこくっていた。
    (あ………)
    やはり…ダメか。
    親父の表情は見えなかったが、突き刺さる沈黙に俺の口も動くのをやめてしまった。
    その瞬間だった。
    どん、と俺の頭に鈍い痛みが走った。
    親父が、身を乗り出して俺の頭にゲンコツを落としていた。
    拳を引き、無言で親父が俺をにらみつけている。
    何が起こったのかはわかっていた。
    母の縁者に惚れた俺に、親父が激怒したのだ。
    …と、思っていた。
    しかし、ようやく吐き出された親父の言葉は、俺の理解したものとは違っていた。


    38 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:03:11.54 ID:V88tLildO
    「ばかやろが…お前はその歳になってもまだ、俺のゲンコツが欲しいのか!」
    「………」
    「お前の結婚は、お前の問題だろ?好きにすりゃいいだろうが!!」
    「………え?」
    「それを…俺と母さんのことで…そのコの気持ちまで踏みにじるなんて…! …お前も俺も、情けねぇ!」
    親父は怒っていた。
    けれどそれは、優しい怒りだった。
    「俺や母さんのことを心配してくれたお前の気持ちはうれしい。
     だけどな、それは親孝行じゃあ、ないぞ。お前は、お前のことだけを一番に考えてくれればいい。
     お前が選んだコなら心配はない。こう見えても俺、お前のこと信用してるんだぞ(笑)」

    鼻の奥が痛い。
    瞼が熱くなった。
    「健吾、しあわせになってくれ」
    とどめ。
    もう耐えられない。
    「泣くな馬鹿。いい歳こいて(笑)」
    小さな店でよかった。
    この顔はとてもじゃないが人前に出せない。
    がびがびになった顔を隠しながら店を出た。
    親父のアパートまで数百メートル、ふたりで歩いた。
    さっきの余韻が抜け切れなくて、俺は一言もなかった。
    親父は口笛を吹いていた。
    ふいに、親父が俺の頭を撫でた。
    「な、なんだよ!?」
    「痛かったか?」
    「ん?ああ、…ああ(笑)」
    「ふふん…ばかやろ(笑)」
    「うん(笑)」
    「母さんも、賛成してくれたんだよな?」
    「うん。同じようなこと言われた」
    「そうか。…今度、彼女に会わせろよ」
    「うん、もちろん」
    「…といっても、もうお前、彼女に見限られてるかもしれんな(笑)」
    「やっ、やなこと言うなよ!」
    「ふふ。早めに会えよ」
    「うん」

    親父がまた口笛を吹き始めた。
    親父が部屋に入っていくのを見届けた後、表通りに出てタクシーを拾った。
    乗り込むや否や、どっと倦怠感が押し寄せる。
    だが心地よい気だるさだった。
    そっと、頭のてっぺんに手を当てた。
    …膨らんでる。
    恐るべし、アーノルド。
    もうすぐ還暦を迎えるというのに。
    じわじわと、小さな痛みを自覚した。
    笑いがこみ上げてくる。
    (30過ぎて…親父の鉄拳制裁を食らうとはな)
    高校の時以来のこの痛みが、大切なものに思えた。


    39 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:04:15.29 ID:V88tLildO
    太田家に帰ると母がまだ起きていた。
    待っていたのだと思う。
    「おかえり。…お父さん、元気だった?」
    「うん」
    「そう。…で?」
    「話したよ」
    「うんうん。それで?」
    「怒られた。んで、殴られた」
    「え!?」
    「俺のことなんて心配してんじゃねぇ、って」
    「ああ…なんだ、びっくりしたぁ。…そっか。そっかぁ!」
    緊張していた母の顔が緩んだ。
    「よかったねぇ」
    「うん…ありがとな」
    母が笑顔で頭を振った。
    出されたお茶をしみじみすすっていたら、母がいつもの軽口に戻った。
    「でもさ」
    「うん?」
    「恵子ちゃん、もう彼氏できてたりして(笑)」
    親父と同じようなことを言う。
    いや、そんなこと………あり得る、あり得るよなぁ。
    にわかに不安感が湧いてくる。
    無意識に湯呑みを握り締めていた。

    翌日は昼近くに起きた。
    お父さんも母もとっくに仕事に出ていた。
    居間のテーブルの上に母のメモ書きがあった。
    ごはんはテキトーに
    考えてみれば今日はまだ平日。
    休みなのは俺だけ。
    ちょっとした解放感に、スキップしながら台所へ行った。
    冷蔵庫を漁り、朝飯にありつく。
    ついでに缶ビールも失敬。
    昼間のアルコールはよく効いた。
    寝転がってテレビを観ながら、贅沢な閑暇を味わった。
    ふと女性タレントに目がいった。
    以前から恵子ちゃんに似ていると思っていたタレントだった。
    親父と母の予言(?)が脳裏をよぎる。

    がばっと跳ね起き、携帯を手にとった。
    (昼休みだよな)
    1…2…3…4…。
    10コールを数えても恵子ちゃんは電話に出なかった。
    留守電に繋がる。
    けれどメッセージは吹き込まなかった。
    1時間後。
    また恵子ちゃんの携帯に電話した。
    (もしかしたら、休憩は1時からかも)
    あきらめが悪い。

    しかし結果は同じだった。
    缶ビールは5本目に入っていた。
    悲観的な考えばかりが頭に浮かぶ。
    明らかに酔いが手伝っていた。
    (夜にしよう)
    昼寝した。


    40 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:06:01.98 ID:V88tLildO
    気持ちの良い午後を過ごしたはずなのだが、仕事から帰ってきた母に起こされた時は気分がすぐれなかった。
    すぐにでも恵子ちゃんに電話したい気持ちを抑え、夕飯をとる。
    食事の最中、携帯が鳴った。
    もしやと思い、画面を見ると案の定、恵子ちゃんからだった。
    「あ、職場からだ」
    棒読み。
    今更、母に嘘をつかなくてもいいのだが、この時はわけのわからない恥ずかしさがあった。
    足早に2階の部屋へと移る。
    「昼間、電話くれたんだねー。ごめんね」
    「こっちこそごめん。休憩中だと思って」
    「そうだったんだけど気がつかなかった(笑)」
    「そか(笑)」
    「元気?そっちは死ぬほど暑いでしょ?」
    「実は今、一足早く帰省中なんだ。土曜日に同僚の結婚式があって」
    「そうなんだー」
    「うん。それで、日曜日までいるつもりなんだけど、それまでの間、よかったらメシでも一緒にどうかなって」
    「あ、なら明後日の金曜日はどう?土曜はウチの会社休みだから、私も気兼ねなくゆっくりできるし」
    「気兼ねなくゆっくり飲めるし、の間違いだろ(笑)」
    「そうそう…ってオイっ!(笑)私最近、お酒飲む量少なくなったんだよお」
    「年のせい?(笑)」
    「ちーがーいーまーすー(笑)耳の薬のせいだもん」
    「え?耳って…ずいぶん前に三半規管の病気になったってやつ?あれって治ったんじゃなかったの?」
    「ううん。今もバリバリ継続中(笑)」
    「そっか。以前、快方に向かってるって聞いたから、てっきり完治したのかと思ってた」
    「お医者さんには完全には治らないって言われたの。
     まあ、たまにめまいとか頭痛がする程度で、日常生活に支障はないんだけどね。
     薬を飲みつつ、一生付き合っていくって感じ」
    「その薬が酒と相性悪いの?」
    「飲んでもいいけど量は抑えなさいって言われた」
    「なるほど」
    「だから、私の目の前であんまり飲まないでね。誘惑に負けちゃうから(笑)」
    「わかった。すっごく美味しそうに飲むことにする」
    「わかってないじゃん!(笑)」

    兎にも角にも、約束をとりつけた。
    (決戦は金曜日、なんて歌があったな)
    俺の大好きな言葉“悶々”がもうすぐ消滅する。
    どちらに転ぶにせよ、だ。


    41 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:07:00.73 ID:V88tLildO
    インターバルのように空いた木曜日。
    あの日、俺は何をしていたのだろうか。
    最後の“悶々”を楽しんでいたのだろうか。
    思い出せない。
    だが確実に24時間は過ぎ行き、俺にとって生涯忘れえぬ金曜日が訪れた。

    恵子ちゃんの仕事が終わってからということで、待ち合わせは夜8時に設定していた。
    家にいても余計なことを考えるばかりなので、日中から街に出た。
    しかし、何をしていればいいのか思いつかない。
    映画館に行ってみた。
    ストーリーがまったく頭に入らず、1800円をドブに捨てた。
    本屋に入った。
    知らず知らずのうちに恋愛ハウツー本を手にとっていた。
    しかもよく見ると女性向けだった。
    喫茶店で休んだ。
    ぼーっと、恵子ちゃんのことを考えた。
    …なんだよ。
    これじゃ家にいるのと同じじゃないか。

    7:00PM
    散々、街を彷徨ったのに約束の時間までまだ一時間もある。
    …酒の力を借りよう。
    決戦に備えて景気づけにもなる。

    友枝とあの時行ったバーへと向かった。
    開店まもない店内には客の姿はなかった。
    いつものバーテンが「お久しぶりです」と俺を迎えた。
    「待ち合わせ前なんで、一杯だけもらえますか?」
    「はい。何になさいます?」
    しばし考える。
    思いつくのはひとつしかなかった。
    「この間いただいた“両想い”、アレ…いいですか?」
    カップルにしか出さないというカクテル。
    しかしバーテンは「憶えていてくださって、ありがとうございます」
    快く応じてくれた。
    淡いピンク色の水中を、ビーズのような気泡が踊っている。
    今日は自分のために飲む。
    軽く願掛けした。その様を、バーテンが微笑みながら見守っていた。
    なんだか気恥ずかしい。
    ちびりちびり、じっくりと時間をかけて飲み干した。
    「次回は2つ、お出ししたいです」
    店を出る時にかけてくれたバーテンの声が、とても心強かった。


    42 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:08:01.79 ID:V88tLildO
    8:00PM
    時間ぴったりに、恵子ちゃんは待ち合わせ場所へと現れた。
    久々に見る恵子ちゃんのスーツ姿。
    …タイトスカートって、いいなぁ。
    「行きたいお店があるの」

    恵子ちゃんの先導で向かった店は、初めてふたりで食事をしたあの店だった。
    ひとり、気分が高揚する。
    なんだか恵子ちゃんにお膳立てをしてもらっているようだ。
    その日のオススメのワインをオーダーし、乾杯した。
    俺はその杯に、またふたりでここに来れたことへの祝杯を重ねた。
    「電話ではああ言ったけど、気を遣わないで飲んでね」
    彼女の気遣いが愛おしかった。
    だが今夜は俺も酒は控えるよ。
    飲んだくれてる場合じゃないんだもん。
    今日ここで、すべてが決まる。
    終わる。
    終わらせる。
    しかしそんな意気込みも束の間、一時間も経つ頃には俺の心は苛立ち始めた。
    ふたりで話しているとどうしても馬鹿話で盛り上がってしまう。
    望む方向に会話を持っていけない。
    なんとも色気のない話ばかりが続いた。
    楽しいんだけど…いや、楽しいからこそタチが悪い!
    「デザートでも頼もっか」
    彼女に品書きを渡し、無理矢理、会話を中断した。
    流れに変化をつけようと必死だった。
    “デザート作戦”は功を奏し、恵子ちゃんはデザート選びに夢中になった。
    ようやくシンキングタイムを手に入れた。

    …しかし、どうしたものか。
    切り口がわからない。
    大体、こんな公衆の面前で女性に告白したことなんて今まで一度もない。
    気の利いた言葉がひとつも浮かんでこない。
    どうしよう。どうしよう。
    「はい。私は決まり。健吾君はどれにする?」

    時間切れ。
    「じゃ、じゃあ、俺は~」
    “イチゴとバナナの井戸端会議”なるものを注文した。
    あれほど時間の観念がなくなった日はないだろう。
    気づくと11時をまわっていた。
    「そろそろ出よっか。終電も近いし」

    おとなしく従った。
    だがあきらめたわけではない。
    駅までの道のりは徒歩10分。
    当初の予定とは大幅に異なってしまったが、この際、四の五の言ってられない。
    歩きながら、だ。

    「あのね」
    うわっ。
    …恵子ちゃんに言葉を盗られた。
    「実は、ね」
    ここまでは俺の言いたいことと一緒だった。
    「今、交際申し込まれてるの」
    噴き出した脂汗が夜風に撫でられた。
    (ああ、気持ちいいなぁ)
    などと考えていた。


    43 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:09:17.31 ID:V88tLildO
    「…あ、相手は?」
    現実に向き直った。
    「同い年の、会社の人。職場でよく遊びに行くメンバーのひとり」
    「じゃ、お互いによく知ってる仲なんだ…」
    「うん」
    「…恵子ちゃんは、その人のことどう思ってるの?」
    「うん…すごく、いい人。ただ…」
    「…ただ?」
    「結婚を前提にって、言われたの」
    熱帯夜、俺だけが凍りついた。
    どうにか、口だけ解凍する。
    「そ、そりゃ余程、恵子ちゃんのことが好きなんだねぇ」
    「………」
    「それで…ど、どうなの?」
    「なにが?」
    「い、いや、なにがって…悪い気はしないんでしょ?その人のこと」
    「…わかんない。今まで仲の良い友達だと思ってたから…そんな風に見たことなくて」
    「そうか…」
    「ねぇ、健吾君。男の人って、付き合う前からいきなり結婚を意識するものなの?」
    「そんなの…男も女も関係ないと思うよ。
     恵子ちゃんとその彼の間には、今まで身近に接してきた時間があったわけで、
     その中で彼が、恵子ちゃんを『この人だ!』って、感じたということでしょ?
     付き合う前の時間だけで、彼には充分だったんじゃないかな?」

    なにを真剣にアドバイスしてるんだろ、俺。
    「男女の仲になる前に…ってのは少し性急かもしれないけど、
     恵子ちゃんの良さに気づいたんだから、その彼、見る目ある人だと思うよ」
    「やだなぁ、いつもの健吾君らしくないよ(笑)オチがないじゃん(笑)」
    「いや、冗談じゃなくて(笑)」
    本心なんだ。
    「ありがとね、健吾君」
    「いや…大したコト言えてないけど…」
    「ううん…そうじゃなくて。…ありがとう」
    ?どういう意味か聞きたかったが、すでに改札の前まで来ていた。
    「送ってくれてありがと!ここでいいよ」
    「うん…」

    最終電車が来るまでまだ5分くらいあった。
    引き止めたい。
    何か話題は………何か話題を…。
    「じゃ、健吾君。さよなら」
    俺の言葉は、待ってはもらえなかった。
    …これで終わりか?
    改札の向こう、恵子ちゃんが笑顔で手を振っている。


    44 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:10:29.58 ID:V88tLildO
    ………。
    あわててSuicaを取り出し、改札に叩きつけた。
    振っていた手を止め、恵子ちゃんがキョトンと俺を見ている。
    「送る。ホームまで」
    「え?いいよぉ(笑)」
    「いいから…いいから…」
    恵子ちゃんが眉をひそめて俺を見つめた。
    ホームには最終電車がもう止まっていた。
    時間調節しているようだ。
    恵子ちゃんは電車の中。
    俺は白線の上。
    「じゃあ、これでほんとにさようなら(笑)」
    さようなら、って、こんなにさみしい言葉だったんだ。
    発車のアナウンスが、俺の背中を押した。
    俺は電車に飛んだ。
    すぐにドアは閉まった。
    口をポッカリ開けて、恵子ちゃんが唖然としている。
    「乗っちゃった(笑)」
    「な、健吾君、なにしてるのぉ!?」
    恵子ちゃんの口を見た。
    「ごめん、恵子ちゃん。次の駅で、降りてくれ」
    恵子ちゃんの口が「うん」と言ってくれた気がした。
    次の停車駅までのほんの数分間、恵子ちゃんは俺の顔をずっと見ていた。
    俺も恵子ちゃんを見つめ、決して負けなかった。
    扉が開き、トン、と足をホームに下ろした。
    すかさず振り返る。
    ちゃんと恵子ちゃんも後に続いていた。

    電車が出発するのを待つ。
    電車が去った。
    他の乗客がホームからいなくなるのを待つ。
    いなくなった。
    恵子ちゃんはずっと黙っていた。
    「恵子ちゃん」
    「…はい」
    「さっきの彼氏の話、断ってください!」
    「………」
    「俺、恵子ちゃんのことが、好き、です」
    恵子ちゃんが俺を見上げている、気がした。
    震える四肢。
    「もし、恵子ちゃんが俺のことを、ま、まだ、想ってくれてるなら、お、俺と…つきあ…てく…さい」
    最後のほうの言葉は恵子ちゃんの言葉でかき消された。
    「…自惚れてるなぁ(笑)」
    絶句。
    多分、金魚のような顔をしていたに違いない。
    うわーうわーうわー。
    やっちまった。やっちまったよ、おい。
    とんだ勘違い野郎だったんだ、オレ…。
    「でも」
    視線を泳がせていた俺の鼻に、恵子ちゃんの匂いが流れ込んできた。
    「ずっと…自惚れててください」
    恵子ちゃんが俺の腰に両腕を回していた。


    45 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:11:58.98 ID:V88tLildO
    サラサラとした恵子ちゃんの黒髪が、俺の右手の中にある。
    砂糖菓子のように容易く砕けそうな肩が、俺の左手の中にある。
    俺は恵子ちゃんを抱きしめていた。
    恵子ちゃんの匂いが俺をくすぐる。
    出会った時から変わらない、いつもと同じ香り。
    両腕に、もっともっと力をこめたくなる。
    「ごめんねぇ。そろそろ、ホーム閉めたいんだけど(笑)」
    ふたりとも、ビクッとなった。
    すぐそこで、駅員のおじさんが笑っていた。
    お互いにお互いの顔の赤さを認めつつ、「す、すみませんでした!」ふたりで改札まで駆けた。
    笑いながら。

    改札を出るとすぐ、堰を切ったように俺は再び恵子ちゃんを抱き寄せた。
    今度はもっとちゃんと、もっとやさしく。
    10分。
    灯りも消えた駅の入口に、ふたり、佇んだ。
    このままいつまでも恵子ちゃんの髪を撫でていたかったが、思い切って、身体を離した。
    恵子ちゃんが俺を見上げた。
    たまらず、また抱き寄せてしまった。
    三度、恵子ちゃんの匂いを思いっきり吸い込んだ。
    くすくすと、恵子ちゃんが笑った。
    「すっごくクンクンしてるね(笑)」
    「うん(笑)恵子ちゃんの匂い、好きだ」
    後から聞いたのだが、アリュールという香水だそうだ。
    飽きることなどなかったが、さすがに今度はちゃんと身体を離した。
    代わりに恵子ちゃんが指を絡めてきた。
    つないだ手を子供のように振りながら、ふたり歩き始めた。
    「…ごめんな。変なところで降ろしてしまって…」
    ようやく頭が冷静に考えることを思い出した。
    「ううん…うれしかったから…いい」
    「俺もすごくうれしい」
    「…照れるね(笑)」
    「照れる(笑)」
    照れてばかりもいられない。
    「どうしよ?また街に戻ってどこかで飲む?」
    「うーん…」
    恵子ちゃんが俺の顔を覗き込んだ。
    「あのね。敏夫叔父さん(お父さん)のとこ、行きたい」
    そう言うや否やすぐに顔を伏せた恵子ちゃんの耳は、暗がりでもはっきりとわかるくらい、真っ赤だった。
    「…わかった。行こ!」
    すぐさまタクシーを拾った。


    46 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:13:19.64 ID:V88tLildO
    太田家にはまだ灯りがともっていた。
    明日はお父さんも母も休みだから夜更かししているのだろう。
    玄関の鍵は開いていた。
    「ただいま!」
    ことさら元気に扉を開けた。
    出迎えた母が俺たちふたりを見て目を丸くした。
    「ふたりで飲んでたんだ。調子にのって、終電間に合わなくしてしまって」
    とってつけた言い訳。
    だが母は気にするでもなく、うれしそうに恵子ちゃんを中へと誘った。
    居間に行くと、お父さんがテレビ画面に張り付いていた。
    どうやらこの夫婦はテレビゲームに熱中していたらしい。
    …このふたりも来年、還暦を迎えるのだが。
    お父さんも母同様、俺たちを見て驚いた。
    俺は同じ言い訳をした。
    「今夜は泊まってもらいますから」
    母が恵子ちゃんの実家に電話を入れてくれた。
    4人で茶を飲む。
    無言。
    だがお父さんも母もニコニコと俺を見ている。
    恵子ちゃんから湯気が出そうだった。
    (…バレバレじゃないか(笑))
    もとからそのつもりだ。
    用意していた台詞を口に出した。
    「俺たち、付き合うことにしました」
    お父さんと母の顔がパーッと輝いた。
    「おお!そうかぁ、そうかぁ」
    お父さんがはしゃいでいる。
    「よかったねぇ、よかったねぇ」
    母がティッシュを鷲掴みにして顔を拭っていた。
    恵子ちゃんは恥ずかしそうに湯呑みを弄んでいた。

    翌朝早くに恵子ちゃんは家へと帰っていった。
    お父さんの車を借りて送るつもりだったのだが、
    「午後からお友達の結婚式でしょ?それまで休んでて。昨日は遅くまで起きてたし」
    という恵子ちゃんの言葉に甘えさせてもらうことにした。
    彼女が帰った後、恵子ちゃんの実家に電話を入れた。
    恵子ちゃんの母・浩美さんが出た。
    「すみません。昨晩は恵子ちゃんを連れまわしてしまって」
    「いいええ。健吾君なら安心。また誘ってあげてね」
    安心…か。
    (早いうちに恵子ちゃんの両親にも挨拶しなきゃな)
    少しも気は重くはならず、むしろその日を焦がれた。


    47 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:14:35.31 ID:V88tLildO
    昼前。
    式から参列することになっていたので、早めに式場へと向かった。
    郊外の大きなレストランが式場だった。
    レストランウェディングというやつだ。
    東京などでは珍しくないが、まだまだこの街では目新しい。
    控え室で待っていると、友枝が顔を見せた。
    俺の姿を認めるや、小走りに駆け寄ってくる。
    「おおおつかさぁぁぁん」
    予想を裏切らず、友枝はガチガチに緊張していた。
    真夏とはいえ、空調のきいた室内なのに、燕尾服の襟元が汗でびっしょりだ。
    「だいじょうぶかぁ?」
    「気持ち悪いです。吐くかも」
    「緊張してるだけだよ。しっかりせい(笑)」
    「ダメです。吐いてきます」
    そそくさと友枝が手洗いへと消えた。
    どうやら式に参列するのは新郎新婦の友人がメインのようで、会社関係は俺と上司だけだった。
    上司と話しているのも飽きた俺は、式場内を当て所もなくうろついた。

    一際賑わっている部屋があった。
    覗いてみると、女友達に囲まれている芽衣子さんの姿があった。
    純白のウェディングドレスが、窓から差し込む陽光にやわらかく包まれていた。
    美しい。
    この姿を見て、ため息の出ないヤツなどいないだろう。
    見惚れていたら、芽衣子さんも俺の姿に気づいた。
    何か言いたげに、首を伸ばしている。
    近くに行きたかったが、デジカメや携帯を手に群がる女性たちに気圧され、
    (また後で)と手を振り、部屋を出た。

    廊下で友枝と再会した。
    文字通りスッキリとした顔だった。
    「大塚さん!芽衣子さん、もう見ました?」
    「うん」
    「綺麗でした?綺麗でした?俺、まだ見てないんです」
    軽~く、友枝の頭をひっぱたいた。
    「ああっ、セットが!セットが!なにするんスか!?」
    「さっさと行け(笑)」
    芽衣子さんの部屋の方向に、友枝をドンと押してやった。
    やっぱりというか、式の間中、ずっと友枝は泣いていた。
    芽衣子さんはこれ以上ないくらいやさしい顔で、友枝の顔にハンカチを宛がっていた。
    ふたりの姿に、参列者から微笑みがもれた。
    (でも…俺も泣いちゃうかもしれないな)
    ブーケを投げる芽衣子さんの姿に、未来をダブらせた。


    48 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/22(月) 06:15:37.36 ID:V88tLildO
    2次会は街中のレストランバーで行われた。披露宴から合流した同僚たちと、友枝を囲み、冷やかす。
    いまだ興奮冷め遣らぬ体の友枝だったが、酒と時間がいつもの彼を呼び覚ましていった。
    「大塚さぁん、今日は何の日か知ってますう?」
    しな垂れかかっていた友枝が顔を近づけてきた。
    「お前が裏切り者になった日(笑)」
    「なんスか裏切り者って!大塚さんもさっさと独身にオサラバしなきゃダメっスよ」
    「わかってるよぉ。早くお前のお仲間になりた~い(笑)」
    「んふっふっふ」
    「なんだぁ?気色わりーな」
    「だいじょーぶ。大塚さんも結婚できます」
    「他人事だと思って(笑)」
    「今日はね、大安じゃないんスよ」
    「そーなの?…でも、だから?」
    「友引っス」
    友枝が俺の肩をバンバン叩いた。
    「友引に結婚式すると、来てくれた人も結婚できるんですって。
     感謝してくださいよう!大塚さんのために、わざわざ大安避けて今日にしたんスからぁ」
    「そっか。ありがとな」
    「てことで、今日はがんばってください!芽衣子さんの友達いっぱいきてるんスから」
    友枝。もう、がんばらなくてもいいんだぜ、俺。

    やがて友枝が友人たちと余興を披露し始めた頃、
    友人や同僚から解放された芽衣子さんが俺のもとへとやってきた。
    「だいじょうぶ?疲れたんじゃない?」
    「うん、だいじょうぶ。健吾君、今日は本当にありがとう」
    「いやいや。…あ。こっちこそ、ありがと(笑)」
    「え?」
    「わざわざ“友引”を選んでくれたんだってね。聞いたよ(笑)」
    「ああ(笑)すっごく彼こだわってたの、友引に。
     『縁起でもかつがないと大塚さんは結婚できない!』って(笑)」
    「失礼な(笑)」
    「ねぇ(笑)」

    友枝を見、ついで芽衣子さんを見た。
    「…いいヤツだよな」
    「でしょ?」
    芽衣子さんのノロケがうれしかった。
    「健吾君、これ…」
    芽衣子さんが小さな紙包みを差し出した。
    中には黄色い花が一輪入っていた。
    「ブーケに使った花。メランポジウムっていうの」
    芽衣子さんが花をやさしくつまみ、胸のポケットチーフにそっと挿してくれた。
    「健吾君にあげたかったんだ」
    “友引”と“メランポジウム”
    ふたつの想いに応えたいと思った。


    【5】(最終章)へつづく

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