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次回の特別編成は夏頃を予定しております。ご期待下さい。
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最終日は管理人オススメ、2chの長編スレシリーズをたっぷりお楽しみ下さい!

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ゴールデンウィークスペシャル三日目は特別編成恒例「洒落怖」!
各まとめサイトで殿堂入りを果たしたあの名作、この名作をお楽しみ下さい!

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ゴールデンウィークスペシャル二日目は
真偽の程はともかく「ちょっぴりタメになるコピペ」をたっぷりご紹介致します!

(5/3)
今日から6日までの4日間は「ゴールデンウィークスペシャル」!
本日はネットで古くから愛されてきた名作コピペの祭典「古典祭 ~春の陣~」をお楽しみ下さい!

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(3/4)
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こういうリニューアルは4月頭にやるのがセオリーだと言うのに、一ヶ月も先走って改築してしまう洒落の利かない管理人なのであった。
ここはそういうクソのような人がやってるブログだと思って下さいませ。

(3/1)
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これでIEでの表示も問題なくなるかも…?

(2/2)
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ブログ創立以来初のテキスト複合型トップ絵に無謀にも挑戦。
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    【長文注意】従姉に恋をした。【1】


    605 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/20(土) 17:20:57.36 ID:g/jF6Sx/O
    従姉に恋をした。
    信じられないほど心が痛い。
    彼女に会ってから今日まで、一年一年、一日一日、その痛みは蓄積されていき、今は極限だと思う。
    それはもう彼女との未来など有り得ないのだと実感してしまったからだ。二ヶ月前のあの日に。


    5年前、母が再婚した。
    嫁いで間もない冬のはじめ、嫁ぎ先のお姑さんが亡くなった。その葬式の最中、彼女と初めて出会った。
    彼女は母の再婚相手の姪っ子。歳は俺よりも2つ上。
    しかし小さな風貌のせいか幼く見え、またバタバタした葬式の最中でもあったため、
    俺は紹介を受けていたにも関わらず彼女の年齢など頭になく、高校生だと思い込んでいた。
    だから別段、彼女に意識を払っていたわけでもなく、ましてや当時の俺には結婚を約束していた彼女もいたため、そのファースト・コンタクトはなんてことなく終わった。

    俺は母の連れ子ではない。
    今現在も離婚した父(今も健在)の戸籍に属している。
    だから厳密に言えば彼女とは血のつながりどころか戸籍上も従姉弟関係にあるわけではない。

    「君さえよければ私や私の子供たち、そして私の親戚たちのことを家族だと思ってほしい。
     でも重く考えないでね。気を遣わなければならない人間などいないし、
     みんな君のことをすでに家族だと思っているから」
    母が嫁ぐ時、再婚相手の男性が俺に言ってくれた言葉だ。

    俺は彼の一言がすごく嬉しかった。
    俺が育った家庭環境は親戚付き合いなど希薄だった。
    父も母も親類縁者と付き合うことを避けて生きている人間だったから。
    だから彼の子供たち(一男一女)や親戚の人たち(彼は6人兄妹だったから一族の数はものすごく多い)が
    いっぺんに自分の家族になったことが嬉しくてしようがなかった。

    そして事実、彼の言ったとおりみんなあったかい人たちだった。
    俺はなんの衒も抵抗もなく、彼のことを「お父さん」と呼んだ。お父さんの育った家庭環境も複雑だった。
    お父さんの姓は「太田」だったが、親戚の人たちは「田中」姓だった。
    それは田中の6人兄妹のうち、お父さんだけが太田家に養子に出されていたからだった。
    しかし両家の交際が深かったため、6人兄妹はほとんど離れ離れになることなく大人になったという。
    その話を聞いた俺はますます、この一族の一員になれたことを嬉しく思い、
    こんな素敵な人たちのところに嫁いでくれた母に感謝すらしていた。
    しかしそんな俺の気持ちが、後々自分の障害になるなんて、当時は思いもしなかったんだ。


    606 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/20(土) 17:55:33.12 ID:g/jF6Sx/O
    その年、2000年のクリスマスに、俺は付き合っていた彼女にプロポーズした。
    この街では数少ない小洒落た店を予約し(俺は地方都市で育った)
    大枚をはたいて買ったエンゲージ・リングを彼女の薬指にはめた。
    18の頃に両親が離婚し、間近で見せられた彼らの修羅場がトラウマとなっていた俺は、
    「結婚」なんてものになんの幻想も夢も抱いていなかった。
    その俺が結婚する。結婚できる。
    俺のトラウマは癒されたんだと思った。
    満面の笑顔で彼女が言う。
    「ウチのお父さんの説得、ふたりでがんばろうね」
    彼女は3人姉妹の真ん中で、上・下の姉妹はすでに嫁いでいた。
    それゆえにいつも「お前の結婚相手は婿入りできる人間でないと認めない」と、
    彼女は父親から釘を刺されていた。

    俺はプロポーズの前に彼女に言っていた。
    「俺の母親は再婚してるから安心だけど、親父はずっと一人身で暮らしている。
     彼に再婚する意思はないし、この先も独身でいるだろう。
     だから俺は君の家に婿入りするわけにはいかないんだ」
    彼女は俺の気持ちを快く汲み取ってくれた。
    「お義父さんも一緒に幸せになろうね」
    そんなことも言ってくれた。
    幸せだった。
    この幸せな気持ちさえあれば、彼女のオヤジさんもきっと説得できると、自信を持っていた。


    607 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/20(土) 18:45:51.50 ID:g/jF6Sx/O
    それからまもなくのある日、俺は彼女の実家に挨拶に行った。
    オヤジさんは渋い顔つきをしていた。すでに彼女から俺が婿入りの意思のないことを聞かされていたからだろう。
    座布団も茶も出なかった。まあ当然だろう、と俺は気合を入れてオヤジさんと話し始めた。
    「はじめまして。大塚と申します」
    「話は聞いてる。認めない」呆気にとられた。
    「私たち夫婦に残されたのはこの娘だけだ。この娘までとられたらこの先、私たちの面倒は誰が見る?」
    俺はめげない。
    「私が婿入りしないとしても、それはお義父さんたちの世話をしないということではありません。
     ただ一緒に暮らせないというだけであって、お義父さんたちから彼女を奪うつもりはないのです。
     私を家族として認めていただきたいのです」
    ここまで理路整然と話ができたかはおぼえていない。オヤジさんは聞く耳を持ってくれなかった。
    「家族になりたかったら、戸籍上でも正式になりなさい」

    太田のお父さんのことが頭に浮かんだ。
    血のつながりや戸籍についての考え方、それは人によってこうまで違うものなのか。
    そんなことを考えたり聞いたりしたことがなかった人生だった俺だから、二の句が出てこなかった。
    情けないが彼女に目を向けた。
    ヘルプミーだった。
    しかし彼女はずっと目を伏せたまま、とうとう最後まで一言も口を開くことはなかった。
    とりあえず、また今度お伺いしますと辞去した。


    608 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/20(土) 19:14:22.73 ID:g/jF6Sx/O
    彼女が車で送ってくれた。
    車中は静かなものだった。
    俺は戸惑いやら怒りやらで混乱した頭を押さえつけ、精一杯、虚勢をはった。
    「まあ、時間をかけてがんばる…か!」その俺の言葉も彼女は聞いていないかのように、ポツリと言った。
    「無理かも…」俺は爆発した。
    「なんでだよ!?まだ一回目だぞ!ふたりでがんばろうって言っただろ!?」
    彼女はすっかり怖気づいていた。
    すぐに冷静さを取り戻した俺は、やんわりと、なだめすかしながら、
    しかし結論も出せずにこの日は彼女と別れた。

    翌日は彼女とのデートだった。
    うまく事がすすんでいたら、本当は俺の両親(もちろん太田のお父さんも含め)に挨拶に行くはずだった日。
    甘かったな~と苦笑しつつ、彼女との待ち合わせ場所である喫茶店へと入る。いつもの席に彼女がいた。
    彼女はいつもと変わらなかった。俺もいつもと変わらないように装った。
    俺のバカ話にケタケタと笑う彼女に安心し、昨日の話を切り出した。
    「昨日は情けない終わり方になっちゃってごめん。甘かったよ俺」
    下げた頭を戻すと彼女の強張った顔があった。

    …ん?なんだ??話を続けた。
    「早いうちにリベンジしたいから、お義父さんたちの都合を確認しといてくれるかい?」
    「うん。わかった」
    彼女の顔がいつもの顔に戻った。
    また安心した。
    「ゆっくりと、時間をかけてがんばろうな」むしろ自分に言い聞かせるように言った。
    そして彼女に会ったのはこれが最後になった。


    609 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/20(土) 19:40:50.33 ID:g/jF6Sx/O
    オヤジさんたちの予定を確認するため、俺は何度も彼女に電話をした。
    仕事が忙しくもあったので、直接彼女に会えなかったからだ。
    しかしいつ聞いても、都合が悪いらしい、の一言だけ。
    オヤジさんは観光バスの運転手だったから、そりゃ仕方ないかと始めのうちは納得してた。

    しかし3週間、4週間先の予定を聞いても同じ返事が返ってくる。
    ああ…まだ彼女は怖気づいているんだな、と感じ、俺は少し彼女に時間を与えようと思った。
    その話が終わると、電話口の彼女の声はうってかわって明るくなった。
    次のデートはあそこに行こうよ、ホワイトデー期待してるゾ、etc.etc…。
    ちょっとムッとした。
    そんな目先の楽しみで誤魔化したって仕方ないんだぞ。優先すべきことから逃げるなよ、と。
    今度いつ会える?と聞いてきた彼女に、
    俺は仕事を理由に「ちょっとしばらく難しいな~」などと意地悪をした。
    会えないほどの忙しさではなかったけれど、彼女がオヤジさんたちの都合を取り付けてくるまで会うまい、
    と俺は決めてしまった。
    …今思うと、なんて度量の小さいヤツなんだ俺は。


    610 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/20(土) 19:56:58.60 ID:g/jF6Sx/O
    そんなこんなしているうちにゴールデン・ウィークを迎えた。
    彼女の返事に変化はない。
    業を煮やした俺は、GWの予定を立てようと楽しげに話す彼女を突き放した。
    「出張があるから遊べない」
    非常に残念がったが、彼女は渋々納得した。
    実際、出張の予定などなかったが、
    この野郎、GWをひとりで過ごして反省しやがれ、などと俺の心は最低だった。
    自分もひとりでGWを過ごすことになるのに馬鹿だよねコイツ。
    GW初日の朝、しっかりと仕事も休みだった俺は、生まれて初めての一人旅を思いついた。
    手早く荷物をまとめて駅へ行った俺は、その場で行き当たりばったりに行き先を決めた。
    広島。なんで広島??とりあえず新幹線で東京へ。
    車内で何度となく彼女のことを考えたが、無理矢理に心を浮き足立たせる。ハメはずしてやる。
    東海道新幹線はグリーン車に乗ってやるぞ。
    座席にゃテレビが付いてて、美人のアテンダントがおしぼりやらコーヒーやら持ってくるんだ。
    浮かれた俺の頭に、飛行機を使う考えなど浮かばなかった。

    広島は良かった。
    初めての一人旅ということもあったが、何もかもが楽しかった。
    気分も晴れかかっていた。


    612 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/20(土) 20:57:26.24 ID:g/jF6Sx/O
    2泊目の夜、地元で有名なジャズバーへと足を運んだ。
    ほろ酔いの頭をベースの音にのせて躍らせていた時、地元OLと思しき2人組が俺に声をかけてきた。
    「おひとりですか?」
    「ええ」
    ウホ、逆ナンかい。
    「一緒に飲みません?でも彼女に怒られちゃうかな?」
    「んなもん、いませんいません。どぞどぞ」うっとりと曲に耳を傾けつつ酒を飲む。
    会話も弾んだ。
    そしていつしか(なぜか)、話題は男女の恋愛心理になっていた。
    A「このコ、今彼氏とのことで悩んでるんですよ」
    B「聞いてもいいですか?」
    俺「ん?なぁに?」
    相当酔ってた。
    B「結婚しようってことになって、この間ふたりで実家に挨拶に行ったんです。
      そしたら父が『認めん』て言い出して。
      彼は一生懸命説得しようとがんばってたんですけど、私は父の剣幕にびっくりしちゃって…
      何も言えなくなって…涙出てきたんです。そしたら彼と父がケンカになっちゃって…」

    …あんた方、もしかして俺のこと知ってます????
    酔いが醒めた。
    B「帰り道、彼に謝ったんです。何も言えなくてごめんて。
      そしたら彼『泣いてるお前見てたら、なんだかお義父さんに腹がたっちゃってさ。なんでだろ?ごめんな』
      って。嬉しかったけど、なんだか気まずくなっちゃって、それ以来彼とこの話題に触れてないんです。
      もう彼、結婚する気なくなっちゃったんでしょうか?」

    俺、なーんも言えんかった。
    多分ぽけーっとした顔してたんじゃないだろうか。
    「その彼氏なら大丈夫。多分、君から言ってくるのを待ってると思うよ」
    なんとかそんな言葉を捻り出した。

    2軒目に行く気にはなれなかった。
    誘ってはくれたけど、大したことも言えない俺に彼女らも肩透かしをくらっていただろうし。
    それよりも早く地元に帰りたかった。会いたかった、彼女に。
    ちゃんと会って、ちゃんと話をしようと思った。
    翌朝、予定していたもう1泊をキャンセルしてホテルを出た俺は、
    開店と同時にみやげ物屋を物色し彼女の実家へのおみやげを買い足した。


    613 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/20(土) 21:03:37.01 ID:g/jF6Sx/O
    地元に帰った俺はすぐさま彼女に電話した。
    「おかえり!出張、無事済んだの?」
    「(後ろめたい気持ち全開)…うん。なんとか」
    気を取り直して俺は言った。
    「おみやげ買ってきたよ。お義父さんたちの分も。これ持ってまた挨拶に行きたい。
     GW終わってからなら、お義父さんの仕事も一段落するだろ?」
    彼女が言った。
    耳で聞いた最後の生声だった。
    「…う~ん…まだしばらく無理っぽいみたい」
    限界がきた。
    「なんなんだよ!!逃げんなよ!!俺は○△□●▲■○△□●▲■!!!」
    もう今となっては何を言ったのか、何を言えてたのかはわからない。とにかくなじりまくってた気がする。

    押し黙る彼女。
    それが尚、ムカついた。
    「俺、間違ったこと言ってるか!?もういいよ!!」
    こうして俺の結婚話は終わった。
    トラウマが蘇ってきた。
    今、しみじみ思う。
    ここで彼女と別れなければ、俺が短気でなかったならば、従姉のあのコに恋することもなかったと。


    614 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/20(土) 21:08:28.98 ID:g/jF6Sx/O
    その年の秋口の頃だったか。田中一族の娘さんの結婚式があった。
    当然のように、お父さんが披露宴への招待状をくれた。
    まだ傷も癒えていない俺に他人の結婚の祝福などきつかったが、その好意が嬉しかったので参列することにした。
    当日、式は田中一族が住んでいる土地で行われた。
    その土地は俺やお父さんたちが住んでいるところからはかなり離れた田舎で、
    同じ県内ではあるものの風景が全く違っていた。快晴の下の田畑がなんだかきれいだ。
    披露宴までの待ち時間は一族の長兄の家でつぶすことになった。
    すでに何人か親族が待機していたところに俺が顔を出す。よく来たと迎えてくれる親族たち。
    みんな方言丸出しだが、それがあったかくて俺は好きだった。

    そこに従姉のあのコ・恵子ちゃんがいた。軽く挨拶を交わす。お互いなんとなく見たことあるな~という表情。
    あ、あのコか。あっちも俺のことをそう思っただろうな。
    お姉さんの赤ちゃんをあやしている彼女を、することがない俺は見るともなしに見ていた。
    なんだろう?やけにオバサンくさい、いやいや、落ち着いている。
    別段美人というわけではないのだが、顔立ちに落ち着きが備わっている。
    今時の高校生ってのはこんなに大人っぽいものなのか?
    確かにそこいらのギャル然としたケバケバしい女子高生とは違い、
    見た目は清楚でパーティドレスもしっくりきている。それにしても、なぁ。


    615 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/20(土) 21:11:31.24 ID:g/jF6Sx/O
    披露宴が始まった。
    俺と恵子ちゃんの席は同じテーブルにセッティングされていた。
    待ち時間の間にそこそこ会話を交わしていたので、俺はおもいきって恵子ちゃんに歳を尋ねた。

    …31歳。2コ年上だった。
    だよなぁ。なんだか会話しててもギャップを感じなかったし、いやむしろ話が合うなぁと思っていたくらいだ。
    「やべぇ…俺、高校生と意気投合してる…」なんてなことを考えてたから安心した。
    それからは披露宴そっちのけで彼女との会話に盛り上がった。
    彼女は方言と標準語の使い分けができていた。
    わざと織り交ぜて会話する彼女は楽しく、決して嫌味な感じもしない。
    それもそのはずで、彼女も俺と同じく、県の都市部で働いていたからだ。
    他の田中一族の人間よりも都会的な感覚が感じられた。
    間違っても春江伯母さんのように
    「健吾君(俺の名前だ)いいオドゴだなぁ~鼻高いし。鼻おっぎぃオドゴはアソコもデカイって知ってっか?
     ひゃひゃひゃ。だがら見ろ、ウヂのとーちゃんなんて鼻ちっちぇべ? ひゃひゃ」
    なんてことは言わない(俺はこの、女だてらに下ネタを連発する春江伯母さんが大好きで、
    これだからこの一族との付き合いはやめられない、などと思っている。ちなみに春江伯母さんは花嫁の母だ)。
    そしてお互いの会社が意外に近い場所であることもわかった。

    披露宴が終わった。
    俺はお父さんたち太田家の連中と一緒に帰ることになったが、恵子ちゃんは2次会に参加するようだった。
    なんとなく恵子ちゃんと話し足りない感じがした俺は、別れ際に彼女と電話番号の交換をした。
    会社も近いことだし、今度晩飯でも一緒に食おう、と。

    帰りの車中、ふと母が言った。
    「アンタ、結婚もダメになったんだから次考えなさいよ。
     恵子ちゃんなんかいいじゃない!アタシ、あのコ好きだわぁ」言い方は悪いが本人に悪気はない。
    するとお父さんも「そうだなぁ。歳も近いしいいかもしれんなぁ」
    義弟や義妹もノリ気で言う。「うん!健吾君と恵子ちゃん、合うんじゃないの?」
    いきなりくっついちゃえコールの嵐だ。
    俺は「そーねー、いいかもねー」と適当に軽く流した。
    まだこの段階では、俺は彼女に異性を求めてはいなかった。
    会話は楽しかったし電話番号だって交換したが、
    あくまで「血縁関係のない従姉=女友達」の図式でしかなかったのだ。


    616 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/20(土) 21:18:23.55 ID:g/jF6Sx/O
    1ヶ月ほど経った時だった。
    俺は部屋の片隅にほっぽり投げていた物が気になりだした。それは別れた彼女から借りていた本やCD。
    律儀な性格というわけではないが、ちゃんと返さなければと思った。
    きちんと別離の言葉を口にして別れたわけではなかったため、なんとなくケジメが欲しかったのだと思う。
    でもとてもじゃないが、また会って手渡しする気はない。
    宅配便で送るため、彼女のマンションの住所を教えてもらおうと数ヶ月ぶりにメールをした。
    返事はすぐに返ってきた。
    私も借りていた物を送りますので貴方の住所を教えてください
    ハッとした。俺たちは互いの住所すら知らないでいたんだと。

    些細なことだが、妙にさびしくて、やるせない気持ちになった。
    彼女からの事務的なメールの文面を見つめながら、すぐに住所を送信した。
    そして荷物を送る手筈を整え、俺は今まで彼女と送受信したメールと、彼女のアドレスを抹消した。
    だが期待していた解放感は得られなかった。

    翌日の昼下がり、冴えない気持ちで仕事をしながらふと恵子ちゃんの顔が頭に浮かんだ。
    人と話したくてしようが無かった。俺のプライベートを知らない相手と。俺は恵子ちゃんに電話をした。

    なぜかドキドキする。恵子ちゃんが電話に出た時、思わずビクッとなって脇腹を攣った。
    脇腹を押さえながら、俺は恵子ちゃんを食事に誘った。
    それなら今晩どう?と彼女。即日となるとは思ってなかったが、
    是が非でも行きたかった俺は、普通なら残業コースとなる仕事を終業時間30分前には片付けた。
    この仕事は穴だらけになっていて、翌日ひどい思いをすることになったのだが、
    俺は空いた30分でネットをつっついた。食事の場所選びだ。
    知ってる店は全て別れた彼女と共に行っている。それらの店は避けたかった。久しぶりの店探しは楽しかった。


    617 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/20(土) 21:25:08.88 ID:g/jF6Sx/O
    待ち合わせぴったりに彼女と会った。よっ、という感じで彼女が敬礼する。俺も返す。
    それだけなのに心が弾んだ。店まで彼女を案内する道中、「歩くの早いね~」と言われた。
    俺の足はもうスキップに近かった。
    選んだ店はモニターで見るよりも印象が良くて安心した。席につく時、俺は言った。
    「今日は『どうぞマダム』って、椅子は引かないけどいいよね?」
    もちろんジョークだ。
    笑いながら彼女が言う。
    「じゃあ、いつもは引いてんのかいっ!」
    これだ。これがいいんだ。

    打てば響く鐘、とでもいおうか。こちらが差し出した話題にすかさず乗ってくる。
    披露宴の時に彼女と話していて好印象を持った原因はこれだった。
    別に芸人のようにツッコミ役を探していたわけではないが。
    食事は美味しかった。もともと美味しい店だったのだろうけど、
    女の子と一緒に食事することで更に美味しくなった気がする。
    異性が食事のテイストを上げるってこと、久しく忘れてたよ。
    しかし…彼女は酒が強い!
    俺は人並み程度だったから、会話に夢中になるあまりついついいつもの酒量を超えてしまっていた。ギブだ。
    名残り惜しかったが店を後にし、彼女を送るためにタクシーに乗り込んだ。ひどい酔いでクラクラ。
    車体の揺れが拍車をかける。だが彼女のテンションは高く、俺は搾り出した笑顔でそれに応じた。
    彼女のマンションは俺のアパートに近かった。車で10分といったところ。
    また一緒に晩飯をと手を振り、彼女は車外へ。走り出すタクシーをじっと見送る彼女。
    俺はリアウインドウから最後の笑顔を振り絞ってそれに応えた。
    300mほど走ったところでタクシーが門を曲がった。運転手さんストップしてください。
    蚊の鳴いてるような声で車を止め、俺は外に走り出た。
    何年ぶりだろう、吐いたのは。滝のようにゲーゲーしながら、俺は辛いんだか嬉しいんだかわからなかった。


    618 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/20(土) 21:38:43.88 ID:g/jF6Sx/O
    それから彼女との付き合いが始まった。といっても単なる飲み友達のレベル。
    でもウマが合うとはこのことを言うのだと、彼女に会うたびに実感した。
    いろいろな話をした。
    彼女の仕事の話、彼女が趣味としている旅行の話、
    アジアが特に大好きだということ、彼女が「書」を嗜むということ…
    彼女の話の全てが新鮮で面白かった。大抵は馬鹿話に花を咲かせていたが、時に真面目な話にもなった。
    そんな時、彼女の考え方が自分と同じだったりすることもあり、俺はますます引き込まれた。
    その上彼女は聞き上手でもあった。
    俺の話を真剣に聞き、そして真剣な意見をくれた。
    その意見のどれもが的を射た内容であり、俺はいつも感嘆とさせられた。
    思えばそれまでの俺は女性というものを馬鹿にしてきたのかもしれない。口には出さず心のどこかで。
    それまで付き合ってきた女性にいつも「イエスマンは嫌いだから。自分の意見をちゃんと言ってよ」
    などと言いながら、「どうせ俺の意見のほうが正しい」と聞き上手になれず、
    自分の考えで相手をねじ伏せてきた。

    いつものように恵子ちゃんとさよならし、ひとりアパートに帰った時、俺は考えた。
    結婚まで考えたあのコも、そうした自分の利己の犠牲にしてしまったんじゃないのか。
    ようやく見つけた宝石だったかもしれないのに。
    今更遅いが、俺は反省した。
    生まれて初めて、別れた女性にすまないと思った。
    何回目かに恵子ちゃんに会った時、俺は言った。
    「君と話してると楽しい」
    女性に対して初めて言った言葉だった。大した台詞でもないのにね。
    「私も。健吾君の話は面白いし、会うのが嬉しいよ」
    彼女がそう応えてくれた時、俺の気持ちは決まった。
    この宝石を失いたくない。
    もはやいつ告白をしようかと、その頃の俺はタイミングを計っていた。
    悶々としてはいたが、そんなことを考えるのは本当に楽しい。


    619 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/20(土) 21:44:16.71 ID:g/jF6Sx/O
    そんなある日のこと。
    当時、俺はよく週末に太田家で夕食をごちそうになっていた。
    お父さんや母、一つ下の義弟や3つ下の義妹と団欒を楽しんだ。
    そろそろ30にもなろうかという独身男に、アパートでのひとりの食事は味気なさ過ぎる。
    俺にとって大事なひとときだった。
    その日もアハハオホホと宴もたけなわになってきた頃、お父さんが言った。
    お父「最近、恵子とよく飲みに行ってるんだって?」
    俺「ええ。なんか気が合うんですよ」
    義弟「付き合ってるの?」
    俺「いや、そういうんじゃないよー」
    義妹「付き合っちゃえばいいじゃないですか~」
    母「そういう気、あるの?」
    俺は黙ってニコニコしてた。
    そこで母が真顔になって言った。
    母「…でもねぇ。もしも、もしもよ?アンタと恵子ちゃんが結婚なんてことになったら、
      アタシとアンタのお父さん、親戚ってことになっちゃうのよねぇ…」
    頭が冷たくなった。
    俺、なんでそのことに気づかなかったんだろう。
    母「アタシもあの時、恵子ちゃんなんかいいんじゃない、なんて焚きつけたけど、
      後から冷静になって考えるとそういうことになるのよねぇ」
    義妹「それじゃ、結婚式はお父さんたちと健吾君のお父さんが同席!?
       花束贈呈の時なんか、健吾君側にはお父さんが2人並ぶの?」
    お父「いや、もしそうなったら私が並ぶわけにはいかないだろう」
    俺は慌てて取り繕った。
    俺「ちょっ、ちょっと!何勝手に盛り上がってんだよー。
      そんなことにはならんから!ただの飲み友達。安心しろって。
      …でもそーなったら、ちとオモロイねぇ…ふふ」
    母「やめてよねーあはは」
    なんとか冗談で済ますことができたが、もう俺は酒も食事も味を失っていた。


    620 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/20(土) 21:48:08.50 ID:g/jF6Sx/O
    従姉弟同士は結婚できる。
    そう聞いたことがある。
    ましてや俺と恵子ちゃんは血のつながりのない赤の他人。
    彼女が俺に対して恋愛感情を持ってくれているのかはわからなかったが、
    もし交際の申し込みにOKしてくれたならば、その先の展開も期待できると思っていた。
    だが親父の存在が、俺の淡い期待に影を落とした。親父は心に傷を負っていた。
    母との離婚で生じた傷だった。
    親父と母が離婚したのは俺が18の時だった。高校3年の夏休みのある夜、母が俺の部屋に来て言った。
    「お父さんと別れようかと思って」
    その当時、親父と母の様子がおかしいことは気づいていた。
    親父は大工で、典型的な頑固オヤジ。
    もともと気難しい人ではあったのだが、最近とみにひどくなり、
    ほんの些細なことでも怒り出すようになっていた。
    幼き頃から拳で物事を教育されてきた俺も、

    さすがにこの頃の理不尽な親父の態度には我慢がならず、よく反発するようになっていた。
    母は母で、仕事から帰ってきても上の空、心ここにあらずといった感じ。そして親父同様、ピリピリしていた。
    そんな俺たちの姿に当時、中3の妹(俺には実妹もいる)は心を痛めていた。
    そしてこの晩、両親がおかしくなった原因について母から聞かされた。


    621 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/20(土) 22:04:49.30 ID:g/jF6Sx/O
    ウチは借金を背負っていた。
    春先、母は勤め先の金を落としてしまったという。
    大金だった。
    だがそんな金はウチにはない。
    職場にバレては…ということで、母は親父と相談し、親父名義でサラ金から金を借り、なんとか補填したそうだ。
    これで合点がいった。
    それから一週間ほどした晩。家族の間で話し合いがもたれた。
    親父が言った。
    自分たち夫婦は離婚すること、ただし俺たち兄妹が学校を卒業した後に。
    そして借金があること、だからこれからの生活が変わること。
    いやだ、別れないでと妹が泣き喚いた。
    実の妹ながら常々クールなヤツだと思っていたから意外だった。
    でもたかだか15歳の女の子だったんだから当然の反応だったのだ。
    しかし何より驚いたのは親父の姿だった。泣き出したのだ。
    それはもう嗚咽に近かった。
    本当は別れたくないと、顔をクシャクシャにしていた。
    それから離婚までは1年が流れたのだが、俺にとってあの一年はトラウマになった。
    実のところ両親が離婚してしまうことにさほどのショックはなかったのだが、
    それからの親父の態度にショックを受けた。
    あれだけ亭主関白で威張り散らしていた人が、夜6時過ぎには帰宅し、晩飯を作って家族を待った。
    その頃母は少しでも金を作ろうと残業する毎日で、俺や妹は受験のために課外授業を受けていて帰宅は遅かった。
    そんな俺たちを、親父は精一杯の笑顔で迎えた。
    なんとか母に考え直してもらいたかったのだろう。その姿は憐れで痛々しかった。
    子供が親を、ましてや息子が親父を憐れむことほど悲しいものはないと思う。
    俺は親父にしょっちゅう殴られながら育ったが、それは今でいう虐待などではなく、星一徹と飛馬、あんな感じ。殴られて畜生!と思うことはあっても、筋の通った説教をする親父を恨んだことはなかった。
    それだけに豹変した親父の姿がやるせなくて、嫌で嫌で、家に帰ることが苦痛になっていった。
    しかしそんな俺たちの姿を見ても、母の気持ちが変わることはなく、
    そればかりか親父に対する態度はどんどん冷たくなっていった。


    622 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/20(土) 22:18:02.57 ID:g/jF6Sx/O
    一年後、離婚は成立し、親父が家を出た。
    名門女子高への受験に失敗した妹はひどい精神状態になっていたため、女親のほうがいいだろうと、
    母の手許に残ることになった。

    そして母と妹を精神的にも経済的にも支えるため、
    同じく大学受験を失敗した俺はフリーターとなり、彼女らと生活を続けた。
    そして妹の私立高校入学費をプラスした借金返済は、全て親父が背負った。
    親父に残ったのは多額の借金だけとなった。
    時は俺たちの傷を徐々に癒していったが、親父の傷だけは癒えなかった。

    就職してサラリーマンとなっていた俺は、ある時、親父を飲みに誘った。
    その頃の親父は寂しさからか、頻繁に俺に連絡をしてきた。
    いつまでもトラウマから抜け切れないでいた俺はそれを疎ましく思い、
    大抵、忙しさに託けてあまり会おうとはしなかった。
    それだけに親父は大いに喜んでくれた。
    俺が親父を誘ったのには理由があった。
    「親父、付き合ってる人いないのかい?」
    これが聞きたかったのだ。
    当時、俺は件の彼女と付き合い始めていた頃で、母親も太田のお父さんと交際をしていたし、
    妹も仕事先の男性と結婚秒読みの段階だった。
    母と妹がめでたく嫁いでくれれば俺は解放される。自分で稼いだ金を自分のためだけに使うことができる。
    この上親父にも幸せが訪れてくれていたら…俺の心配事は全てなくなる。
    俺は浮かれていた。
    「いる」期待していた答えが返ってきた。俺は更に浮かれた。
    「おっ!どんな人なんだい?」
    「お前と同い年」
    愕然とした。
    「さ、再婚する気なの?」
    「それは絶対ない」
    酒が入ればだらしない顔になるはずの親父の顔は、生まれて初めて見る険しさに満ちていた。
    親父は言った。
    「もう二度と結婚はしない」
    「相手が若くたっていいじゃない。親父だってまだまだこれからなんだから」
    俺は自分でも余計なお世話だと思えるほどに、一生懸命、親父を説得した。自分本位な理由で。


    623 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/20(土) 22:25:14.29 ID:g/jF6Sx/O
    そして更に、馬鹿な俺は親父に言ってしまった。
    「母ちゃんだって、相手を見つけたぜ?」
    俺はなんという残酷な男だったんだろう。
    親父は静かに言った。
    「もう、母さんのことは口に出すな。知りたくもない。関わりたくもない」

    やっと俺は親父の傷に気づいた。
    そして親父は、今付き合っている娘も単なる遊びだ、とも言った。
    事実、その後親父は何人もの女性と付き合ったり別れたりを繰り返した。
    その内の何人かと実際に会ったこともある。
    「遊び」だと言われている女性に引き合わされるのはたまったものではなかったが、
    いつか親父の心に変化が現れるのではないかという期待もあった。
    だがその期待は今日に至るまで裏切られ続けることとなる。

    太田家での晩餐を終え、アパートに帰った俺は思案に暮れた。
    俺が恵子ちゃんと結婚などということになったらどうなるだろう。
    恵子ちゃんが母の再婚相手の姪だと親父が知ったらどう思うだろう。
    まだ恵子ちゃんとそんな関係になってもいないのに、あれこれと脳内シミュレーションを繰り返す俺。
    理屈でしか動けない、情けない男だった。
    俺は決して親孝行な男ではない。ただ親不孝なことはしたくないだけ。
    そしてその思いは親父に対して尚、強い。これ以上、親父から奪いたくはなかった。
    従姉弟というつながりがある以上、完全に接触を断つことはできないが、
    俺は恵子ちゃんへの想いを消すために距離をおくことにした。
    幸い気持ちを彼女に伝える前だったし、今ならまだ抑制がきく。
    俺は徐々に電話やメールの数を減らしていった。

    2001年も最後の月を迎えた。
    会社までの道すがら、クリスマス色の街を眺めながらふと思う。
    (ウキウキしてたな、去年は)
    しかしこの夜、そんな感傷も吹っ飛ぶような事件が、俺の身に起こった。


    624 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/20(土) 22:31:54.13 ID:g/jF6Sx/O
    その日は多忙を極め、俺は残業のためにひとり会社に残っていた。
    と、突然激しい痛みが胸を襲った。
    息は荒くなり、鼓動は早鐘のように加速する。
    (やばい…きた。また、きちまった)
    俺はその痛みを憶えていた。
    俺は昔、心臓を患っていた。
    病名は“移動性ペースメーカー”。不整脈の一種だ。
    心臓を機能させる心拍(鼓動)は、ある一点から規則的に発信される電気信号によって正常に紡ぎだされる。

    移動性ペースメーカーとは、その電気信号が心臓のあらゆる箇所からデタラメに発信され鼓動が乱れる症状を言う。
    多くは過労・心労から発症するらしく、俺の場合も不規則な生活が祟った結果であった。
    高校卒業後の俺はコンビニの夜勤で一年間アルバイトをした後、知り合いのツテで出版業界に就職した。
    今はどうかわからないが、当時のその世界は凄まじい労働環境下にあった。
    朝から朝まで働き、家に帰ってもシャワーを浴びてまた会社にトンボ帰り。
    俺の職種はライターだったから、原稿が煮詰まればタバコやコーヒーの量が増える。
    原稿が上がれば上がったで、夜中でも初校のために印刷会社を駆けずり回る。
    クライアントとの打ち合わせ、取材、資料集め…やることが多すぎて24時間では一日が終わらない。
    それでも文章を書くことが好きだった俺にとってその職は天職だと思っていたし、
    また家にもあまり居たくなかったから仕事に対する意欲は持続できた。しかし身体が悲鳴を上げた。

    ある時、俺は発作を起こし気絶した。潮時だった。
    まだまだ俺は家計を支えなくてはいけない。こんなんで氏ねない。
    俺はその世界を去り、現在の会社に入って普通のサラリーマンとなった。
    医者からもらった薬を服用しながら、お日様と共に生活する毎日。
    社会人になってから初めて経験する“当たり前”の生活は効果覿面で、俺はいつしか薬を必要としなくなった。
    それが突然、再発した。
    なぜ???
    それからは日を負うごとに発作の回数が増えた。
    なんだ?怖い。
    一度、寝ている時に発作が起きてからは、夜眠るのも怖くなった。
    そうして2001年は幕を閉じた。


    625 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/20(土) 22:41:57.74 ID:g/jF6Sx/O
    年明け。いよいよ危険だと感じた俺は大きな病院へと足を運んだ。
    様々な検査で一日が暮れた。
    検査のひとつにルームランナーみたいな機械で走らされるものがあった。
    俺は検査の途中で死んじゃうんじゃないかと思った。

    数日後、診断結果を説明しながら若い医者は言った。
    「危なかったですよ」
    めでたく手術入院が決定した。
    入院の前日、俺はお父さんにお願いした。
    「きっと気を遣うだろうから親戚の人たちには言わないで」
    お父さんは約束してくれた。
    病状は深刻だったが手術そのものはあまり難しくはないらしく、1週間ほどで退院できるとのことだった。
    手術は3日後で間があったが、友人や同僚がエロ本やらうなぎパイやらを見舞いの品に携えて押し寄せたので、
    退屈はしなかった。
    だがそこに期待した顔はなかった。
    約束守り過ぎですよ、お父さん。
    ちょっとそう思った。

    手術方法は胸をメスでかっさばいて…というものではなく、カテーテルという方法だった。
    足の付け根から極細の電熱線を血管伝いに心臓まで通し、
    心臓に散らばった不必要な電気信号発信点を電気で焼く、というものだ。
    足の付け根って…えっ、股間!?
    部分麻酔をするから痛みはないですよと医者は言ったが、いや、そうじゃなくて。
    …ということは剃るんでしょ…。
    屈辱的なプレイを経て手術が始まった。

    手術はつつがなく…というわけにはいかなかった。
    まず尿道に通されていたビニールチューブがはずれ、俺は尿まみれで手術を受け続けた。
    1時間ほどで終わると言われていたので我慢していたが、2時間経ってもまだ終わる気配がない。
    暇だから寝ちゃおうかと思ったが医者が寝るなと注意する。
    もっとも寝ようにも手術台の横のモニターには俺の心臓が映し出されていて、
    蠢くその心臓に無数の電線が絡み付いた不気味な映像が、俺の眠気を木っ端微塵にした。
    手術は難航している。どうやら予想を上回る数の発信点が、後から後から現れるらしい。
    それらを電気で焼くたびに、じわっと胸が熱くなる。
    もう発信点がないかどうかを調べるために、わざと心臓マッサージで鼓動を激しくして不整脈を起こさせる。
    それが延々繰り返される。
    仕舞いには胸の熱が耐えられない苦痛を伴ってきた。
    先生、ギブです。
    「じゃあ、全身麻酔に切り替えますね。目をつぶって数を数えて~」
    ガスを吸わされながら「端っからこうしろよ」と毒づきつつ、俺は10まで数えないうちに眠りに落ちた。


    629 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/21(日) 00:18:20.36 ID:dw10+mQ9O
    目覚めたら夜だった。
    結局手術は7時間かかったらしい。
    身体は動かしてはいけないが食事は構わないということで、手術のために昨晩から絶食させられていた俺は3食平らげた。
    付き添いの母が俺の口に食事を運びながら言った。
    「よかった」
    俺は食事に夢中で母の顔は見ていなかった。

    退院の前日、俺は喫煙所で予想もしていない人と会った。
    田中一族の肇さんだった。
    お父さんの従兄にあたる人だ。
    「びっくりしたな~。健吾君が入院してるなんて聞いてなかったぞ?」
    「ええ。大袈裟にしたくなかったんで、お父さんに口止めしてたんです。
     それより肇さんこそ、入院してるなんて知りませんでしたよ?」
    「恥ずかしくてあんまり公言したくない病気だからね~私も家族に口止めしてたんだよ」
    肇さんは泌尿器科に掛かっていた。
    「肇さん、俺のこと黙っててくださいね、みなさんには」
    「わかったよ~私のことも内緒だぞ?」
    明くる日俺は無事退院し、長年の厄介者と決別した。
    自分は健康だと自覚できるのは本当に素晴らしいことだと思う。
    物事を見る目が変わる。いろんなことに感謝する。気持ちも前向きになる。
    実際、会社の上司や同僚、お父さんや母から言われた。
    「なんだか雰囲気変わったねぇ。角がとれたというか、いい感じだよ」
    そんなに以前の俺はツンケンピリピリしたヤツに見られていたのかとちょっとショックだったが、
    半面、嬉しくもあった。
    それからの毎日、すがすがしい気持ちで生活できた俺は、これなら恵子ちゃんのことを忘れられると確信した。
    新しい恋を探すぞ。


    630 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/21(日) 00:20:53.10 ID:dw10+mQ9O
    退院から一ヶ月。
    週末、いつものように夕食をごちそうになりに太田家を訪れた俺はドッキリとした。
    恵子ちゃんがいた。
    家も近いから恵子ちゃんも俺同様、太田家にちょくちょく顔を出していたので別段びっくりすることではない。
    だが恵子ちゃんを忘れようと決めた日から、恵子ちゃんが太田家に来る日は避けてきていた。
    久しぶり~と変わらぬ態度の彼女に俺も平静を装う。
    意識しつつも酒が入れば酔いも手伝い、次第にドキドキ感はなくなっていった。

    楽しい宴が進行していく。
    酒を噴出しそうになったのはそれからまもなくの彼女の一言だった。
    「そういえば健吾君、入院してたんだって?」
    んなっ!?なんで知ってんの!?
    俺は家族の顔を見回した。
    だが家族もキョトンとしている。
    「肇さんに聞いたの。なんで教えてくれなかったの~。水くさいな~みんな」
    …肇さぁぁぁぁん!
    「い、いやぁあんまり大袈裟にしちゃうとさ、ほら、アレだよ。俺って人気者じゃん?
     田中一族が大挙して見舞いに来ちゃったら病院に迷惑かけちゃうしさー」
    「なるほど~、ってオイ!頭は治してもらわなかったんかいっ」
    皆、俺と恵子ちゃんの漫才に笑った。
    ふええ、焦ったぜ。

    宴も終わり、みんなで後片付けが始まった時、ふと俺と恵子ちゃんは居間でふたりきりになった。
    ほろ酔い気分でおどけている俺に、ツツツと恵子ちゃんが寄ってきた。
    「なんで言ってくれなかったの?」
    軽く袖をひっぱられた俺は、口をあんぐりとしたまま呆けた。

    アパートまで恵子ちゃんが車で送ってくれた。
    なんだか車内の空気が重く感じる。
    「たかだか1週間の入院だったから、あんまり話を広めたくなかったんだよ。ただそれだけ」
    なんだコレ。
    これじゃ彼氏が彼女に言い訳してるみたいじゃないか。
    「ふーん」そう言ったきり彼女は黙っていた。
    翌日、会社帰りのバスの中で昨日の恵子ちゃんの態度を考えてみた。
    あれは…そういうことなんだろうか?彼女も俺に好意(異性としての)を持ってくれてると?
    おそらく車窓に映っている俺の顔はニヤけていたに違いない。
    一瞬、親父のことも忘れていた。だがすぐに別の考えが頭を占める。
    あれだけ仲良く飲み歩いた仲だ。
    本当に言葉通り、単に水臭いヤツと思われているだけなんじゃないかと。

    バスを降りた時には、俺の頭は結論に達していた。
    やはり恵子ちゃんのことは忘れよう。


    631 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/21(日) 00:22:01.67 ID:dw10+mQ9O
    季節が夏を迎えた頃、他県に嫁いでいる妹が家族と共に里帰りした。
    妹たちは帰ってきた際、いつも太田家に滞在する。
    親父のアパートは1Rだったため、子供がふたりいる妹たちが寝泊りするには狭すぎた。
    親父も納得していた。
    悲しく寂しく思っていたとは思う。
    お父さんは妹たちも暖かく迎えてくれていた。
    妹やその旦那を娘・息子と接してくれ、子供たち(姉妹)も孫だと喜んであやしてくれた。
    俺はその光景を見るにつけ、親父の丸まった後姿を思い浮かべた。

    妹たちが去る前日、みんなで外で食事をすることになった。
    俺、お父さんと母、義弟と義妹、妹と旦那、姪っ子ふたり、大勢での食事。
    絵に描いたような団欒を、俺はとても大切に感じていた。


    632 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/21(日) 00:24:01.76 ID:dw10+mQ9O
    なにが火種になったのかはよく憶えていない。些細なことだったと思う。
    その食事の最中、俺と母は口論になった。

    義弟や義妹、妹夫婦が母に味方する。お父さんは黙っていた。
    母が言った。
    「入院して変わったと思ってたのに。結局アンタの短気な性格は治ってないね。
     そんなんだから結婚相手にも逃げられるんだよ!」
    カーッと熱くなった。
    (そんなこと…!俺に言えるのかアンタは!!)
    それまで母に抱いていた感情が爆発した。
    数年前から俺は母に金を貸していた。
    「旦那(お父さん)があまり家にお金を入れてくれなくて…」
    母が俺に借金をお願いしてきたときの理由だ。

    母は嫁いでからも働いていたし、
    お父さんは一流会社の重役で社会的地位のある人だったから、なぜ金に困るのかとはじめは思った。
    しかし部下想いで面倒見の良いお父さんの金離れのよさは知っていたし、
    親戚が多い環境だから友好費も並々ならぬものがあると母に聞かされていたから、
    そういうものだろう、とその時の俺はそれ以上深く詮索せず金を貸した。
    それ以降もちょくちょく金を貸し続けていたが、返済は滞り、ほとんど戻ってはこなかった。
    しかし独身男の身軽さゆえにゆとりのあった俺は苦も無く金を工面してきた。
    金に苦労してきた母だったから、なるべく負担を減らしてあげたいという気持ちもあった。
    前の彼女と別れた後、母が言った。
    「アンタが結婚してなくて助かった」
    この人に人の心はあるのか、そう俺は思ったが口には出さなかった。
    そんな想いや、親父のこと、そしてなぜか恵子ちゃんのことまでが一度に噴出し、俺の心は煮えくり返った。
    お父さんが引き止めるのも聞かず、俺は食事の席から飛び出した。

    明くる日の晩、仕事帰りのお父さんが俺のアパートを訪ねてきた。
    俺は家に上げようとはせず、玄関先でお父さんと相対した。
    「いくら君が短気だったとしても、あんなことくらいであれほど君が怒るとは、私には思えない。
     なにか想うことがあるのなら話してくれないか?」
    視界が滲んだが、俺はそっぽを向いて黙りこくった。
    「…私の目を見ないんだね。わかった。帰るよ」

    それから俺は太田家に寄り付かなくなった。


    633 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/21(日) 00:25:16.99 ID:dw10+mQ9O
    秋、俺に転機が訪れた。
    東京本社への転勤を言い渡されたのだ。
    恵子ちゃんのことも、母のことも、全てを清算したい気持ちでいっぱいだった俺は、初めて体験することになる大都会での生活に希望を抱いた。

    引越しまで一ヶ月となったある日、恵子ちゃんからメールがきた。
    それは彼女が子供の頃から続けている書道の展覧会への誘いだった。
    俺は仕事を理由にその誘いを断った。
    じゃあ、また今度ね
    とメールが返ってくる。
    これから先も「今度」はない、俺は思った。

    日曜日。展覧会の最終日。
    いつもなら昼過ぎまで寝ている俺がなぜか早くに目覚めた。
    (今日が最終日だったな)
    そう思うとソワソワしてきた。
    夕方、とうとう我慢ができなくなった俺は展覧会場へと出かけた。
    (どうせもうオサラバなんだ。作品を観ることぐらい問題ない)
    自分に言い訳をしていた。
    閉会まで30分と迫った会場へ着き、彼女の作品を探す。
    …見つけた!
    俺はてっきり莫山先生のようなワケのわからないミミズ文字を想像していたのだが、
    そこにあった彼女の作品は普通の人が読める字だった。
    俺は目を見張った。
    題材は工藤直子という詩人の「花」という詩。
    わたしはわたしの人生から出ていくことはできない。ならばここに花を植えよう。
    帰りのバスの中で、俺は太田家のみんなが恋しくなって、途中下車した。
    太田家を訪ねた俺を、お父さんは黙って迎えてくれた。
    笑顔だった。
    母は申し訳なさそうにモジモジとしていた。
    俺はいつものように「ゴチになるぜ!」と母に笑いかけた。
    母は泣き笑いのような表情で台所へと向かった。

    食事になり、俺は転勤のことを話した。
    みんなは一様に驚き、さみしがり、そして祝ってくれた。
    もう二度と家族のことを切り捨てまいと、俺は心に誓った。
    その晩、俺は恵子ちゃんに電話をした。
    気持ちを伝えることはやはり出来ないが、お別れの言葉だけは言いたい。感謝の言葉も言いたかった。
    しかし「さよなら」は言えても、「ありがとう」は恥ずかしくて言えなかった。
    恵子ちゃんは「いってらっしゃい」と言ってくれた。

    これで本当に終わったのだと、俺は思った。


    634 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/21(日) 00:26:33.36 ID:dw10+mQ9O
    それから一週間後。
    俺は親父に電話し、食事に誘い出した。
    すでに転勤のことは話していたので、やけに親父が寂しそうに見えた。
    特に話すこともなかったのだが、なんだか別れ難かった。
    親父はこれからの俺の生活に、ただ「がんばれ、がんばれ」とだけ言い続けた。
    別れ際、親父が祝儀袋を俺の手に握らせた。
    掴んだだけで中身の厚さがわかった。
    当時、親父は長年勤めていた建設会社を辞め、フリーの大工(変な言い方だが)として全国を駆け回っていた。
    何人か若い人間も雇っていた。
    決して生活は楽じゃなかっただろう。俺は黙って受け取った。

    転勤2日前、会社の同僚や上司、取引先の人たちが壮行会を開いてくれた。
    会には50人もの人たちが出席してくれ、俺はひとりひとりへの挨拶に追われた。
    一通り挨拶も終わった頃、俺は皆の目を盗んで店の外に出、タバコに火をつけた。
    そこへ女性がひとり近づいてきた。
    取引先の秘書、野田芽衣子さんだった。

    取引先の窓口だった彼女とは仕事での付き合いも深く、また会社同士の飲み会でもよく顔を合わせていた。
    「大変ですね」
    「ええ。でもこれが最後だから」
    「この後、2次会も行くんですか?」
    「アイツら(同僚)帰してくれませんよ(笑)」
    「私もお邪魔していいですか?」
    「もちろん。アイツら喜びますよ」
    彼女はウチの会社でも評判の美人で、内外問わず狙っている者も多かった。
    それに大抵彼女は、こういった会では一次会だけで帰ってしまう人だったので、
    彼女の参加表明に俺は満更でもなかった。


    635 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/21(日) 00:27:58.30 ID:dw10+mQ9O
    2次会は同僚や取引先の若手だけでカラオケに行くことになった。
    飲み会などでの俺はいつも盛り上げ役に徹していたので、
    この時も俺はカラオケ部屋を縦横に走り回ってはしゃぎまくった。
    小一時間も経った頃、さすがに疲れて端っこの席に座り込んだ俺の隣に、芽衣子さんが移動してきた。
    手にはジンライムのグラスを持っていた。
    それを「はい」と俺に渡す。
    「ああ、ありがたい。喉カラカラでした」
    「少しゆっくりしたらいいじゃないですか」
    「最後だと思うとどうにも落ち着かなくて。性格ですね」
    「あんまり最後、最後って言わないでください」
    いつもはおっとり喋る彼女の口調が変わった。
    「今日は…今日ぐらいはちゃんとお話したいです」
    一瞬ぼーっとなったが、俺はすぐに我に返って芽衣子さんを部屋の外に連れ出した。
    「あの…俺と付き合いませんか?」
    我ながらあまりにも唐突であっさりだったと思う。
    でもこの雰囲気は…そういうことなんじゃないかと思った。
    「はい」
    彼女の返事もあっさりだった。

    明くる日、とうとうこの土地での最後の日を迎えた。
    別に感慨深いとかそういうのはなく、それよりも昨晩の芽衣子さんとのことが気に掛かった。
    (俺…付き合おうって言ったんだよな?)
    彼女の「はい」という返事も憶えていたが、なんだか夢見心地で自信が持てない。
    昨日は結局3次会まで行ってしまったし、俺も相当に酔ってしまった。
    芽衣子さんも最後まで付き合ってくれていたが、ベロンベロンになってた俺は携帯番号やメアドすら聞かず、
    彼女を送ることさえしていなかった。
    午後、俺は芽衣子さんの会社に電話した。
    「あの、もしもし大塚です。昨日は…」
    「あ、ごめんなさい。今取り込み中なのでまた連絡します」

    ええええええーっ!?
    やっぱアレ夢だったんか!?!?

    30分後、会社にFAXがきた。
    芽衣子さんからだった。

    「憶えててくれたんですね。よかったー!
     私、夢でも見てたのかと思って心配してたんです。携帯番号とアドレス書いておきます。
     後で連絡ください。最後のお仕事、がんばってくださいね!! 芽衣子」



    ほっとして、彼女の字がいとおしくなった。
    始まりこそなんであれ、芽衣子さんはきっと俺の大切な人になると思った。


    636 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/21(日) 00:29:16.68 ID:dw10+mQ9O
    その日は残務整理だけだったので早目に会社を出た。
    すぐに芽衣子さんの携帯に電話する。
    (あ、いけね。彼女はまだ仕事中じゃないか)
    あわてて切ろうとしたら芽衣子さんが出た。
    「ごめんね。仕事中だったよね」
    「いえいえ(笑)大塚さんは?」
    「もうおしまい。会社出たところ」
    「じゃあ…」
    彼女の声が小声になった。
    「私、早退しますね。ちょっと待っててください」
    「あ、ちょっ、ちょっと!」
    電話が切れた。

    30分後、喫茶店で芽衣子さんと会った。
    「そんな無理することないのに…」
    「いいえ!いいんです(笑)」
    笑顔が可愛かった。
    それから2時間あまり、色々なことを喋った。
    これまで仕事上か飲み会でしか話す機会がなかったから新鮮だった。
    俺は気になっていたことを聞いた。
    「昨日は突然あんなこと言って…びっくりしたでしょ?」
    「はい(笑)でも私も告白するつもりだったんです」
    「そ、そうなの?」
    「ええ(笑)でも大塚さん、みんなに囲まれててなかなかふたりになれなかったからもどかしかったです」
    恥ずかしそうにしている彼女がなんとも可愛い。
    久しぶりの感情だった。

    すでに家財道具は引越先に送っていたので、この日は太田家で最後の夜を過ごすことになっていた。
    でも芽衣子さんともう少し一緒にいたい。
    彼女が俺の心を見透かすように言った。
    「今日はもうお家に帰ってあげてください。これからも一緒でしょ? 私たち」
    たまらなくなって、彼女の手を握った。
    「明日、見送りに行きますね」
    彼女が握り返してきた。

    翌朝、俺はお父さんの車に乗って駅に向かった。
    母たちも一緒だ。
    と、お父さんの携帯に電話が掛かってきた。
    お父さんの話しぶりで相手が誰だかわかった。
    「恵子ちゃん…ですね」
    「うん。これから健吾君の見送りに来るって」
    芽衣子さんとの待ち合わせの時間までにはまだ間がある。
    それに…大丈夫。
    俺にはもう芽衣子さんがいる。
    すでに駅に着いていた恵子ちゃんと合流し、みんなで喫茶店に入った。
    いつもだったらすぐに馬鹿騒ぎになる彼らも、この時は口数が少なかった。
    笑顔で餞別をくれる彼ら。
    その気持ちが伝わってきて、俺は胸がいっぱいになった。


    637 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/21(日) 00:30:25.05 ID:dw10+mQ9O
    ふと喫茶店の窓がコンコンと鳴った。
    !!振り向くと芽衣子さんが笑顔で立っていた。
    芽衣子さん、早い。
    「だれ~?」
    母や義妹が冷やかしの視線を向ける。
    「ん。今付き合ってる人」
    「ひゅーひゅー」
    義弟も冷やかす。
    古い表現だなオイ。

    お父さんが窓越しに「おいでおいで」と芽衣子さんを手招いた。
    小走りに芽衣子さんが店に入ってきた。
    芽衣子さんをみんなに紹介し、みんなを芽衣子さんに紹介した。
    さすがに一昨日から付き合い始めたとは言えなかった。

    少しの間、芽衣子さんを交えて話をした。
    「それじゃ、お邪魔にならない内に我々は帰りますか。元気でね、健吾君!」
    恵子ちゃんが笑顔で俺の腕を叩いた。

    新幹線の発車時刻まではまだ時間があった。
    俺と芽衣子さんはホームのベンチで手を繋ぎながら話をした。
    「なるべくマメに帰ってくるよ」
    「無理しないでね。遠距離だからって気負わないで。私は大丈夫!」
    もっと早くこんな展開になってたらなぁ。行きたくないな、東京。
    新幹線がホームに入ってきた。
    手を放し、デッキから芽衣子さんを見つめる。
    芽衣子さんが何か言いたそうにしていた。
    俺も…したかった。
    ドアが閉まった。
    俺はおどけて、窓越しに芽衣子さんに投げキッスを贈った。
    ホントにやりゃよかったのに。馬鹿。


    638 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/21(日) 00:31:43.44 ID:dw10+mQ9O
    職場は東京だったが、俺は住まいを横浜に決めていた。
    田舎モノの俺にいきなり東京暮らしはハードルが高いとビビッていたのと、
    俺の生まれは川崎市だったので生まれ故郷に近いところを選んだからだ。
    しかし横浜もとんでもなく都会だった。
    新しい職場での仕事は思ったよりもすんなりと入っていけた。
    順調な滑り出しに心に余裕が持てた俺は、暇を見つけては色々な場所へと出かけ、遊び、観て、食べた。
    そして東京に来て2週間後、俺は芽衣子さんに会いに地元に帰った。
    さすがに早っ!とは思ったが、遠距離恋愛なんて初めての経験だったし、
    こういうことは男側が努力しなければいけないと思っていた。
    なにより芽衣子さんに会いたい。
    なんの苦もなかった。
    芽衣子さんはホームまで出迎えに来ていた。
    降り立った俺に芽衣子さんが抱きついてきた。
    背の高い彼女の顎が俺の肩に乗っている。
    俺は彼女の頭を撫でた。
    あの早退の時もそうだが、芽衣子さんは俺が思っていた以上に積極的で行動派だった。
    付き合い始めてから知る相手の意外な一面というものは良いことも悪いこともあるが、
    芽衣子さんのそれは俺を喜ばせることばかりだった。

    楽しすぎたデートはほんの一瞬に感じた。
    帰りもまた、彼女はホームまで一緒に来てくれた。
    朝から今まで、ずっとふたりは喋り続けていたが、新幹線がホームに入ってくると彼女は黙りこんでしまった。
    はぁ、行くか…と、ベンチを立つ俺の手を彼女が放さない。
    座ったまま、芽衣子さんがじっと俺を見る。
    上目遣いをする女性は確信犯だと思う。
    俺は彼女の顔に俺の顔を重ねた。
    それからも俺は2週間置きに芽衣子さんに会いに行った。
    いつのまにかクリスマスがまた近づいていた。


    639 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/21(日) 00:32:46.53 ID:dw10+mQ9O
    クリスマス・イブ。
    彼女がいない時の俺は「ヘン!俄かクリスチャンどもめ!!」と街行くカップルを妬ましく見つめるが、
    芽衣子さんがいる今は「なんて素敵な日なんでしょう」と穏やかな心でいる。
    (単純だなぁ)
    新幹線の中で苦笑しながら、彼女へのプレゼントが入ったカバンを一撫でした。
    いつものようにホームまで出迎えにきていた彼女の手をとり、街へと連れ出す。
    昼食をとり、映画を観て、お揃いの来年の手帳を買った。
    すっかり陽も落ち、街路樹を覆っているイルミネーションがライトアップされた。
    抜かりなく予約しておいた店に彼女をエスコート。前菜が出た時、買っておいたプレゼントを彼女に渡した。
    指輪。
    今思えば恥ずかしいほど定番のクリスマスを演出していたが、舞い上がっていた俺にそんな意識はない。
    彼女からのプレゼントはライターだった。
    高価なブランド物だ。
    裏に文字が彫ってあった。
    Do not smoke too much
    (吸い過ぎないでね)

    「ライターをプレゼントしといてなんだけど…」
    恥ずかしそうに俯く彼女。
    可愛い人だよ、ほんと。
    デザートを食べている時、彼女が言った。
    「今日は帰らないよね?」
    照れたが「うん」と頷いた。
    彼女も照れながら微笑んだ。


    640 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/21(日) 00:33:56.52 ID:dw10+mQ9O
    初めて彼女と朝を迎える。
    もちろん緊張しっぱなしだった。
    キラキラした並木道をホテルに向かって歩いていた時、彼女が立ち止まり、ベンチに腰掛けた。
    もう少しイルミネーションを見てるのもいい。俺も隣に座った。
    彼女がじっと俺を見ながら言った。
    「あのね、健吾君に聞きたいことがあるの」
    「ん?」
    「健吾君、好きな人がいるでしょ?」
    へっ?予期しない言葉に俺はうろたえた。
    「い、いるよ。芽衣子さん」
    なんとか取り繕う。
    しかし俺の一瞬の動揺を彼女は見逃してくれなかった。
    「…今の健吾君の顔ではっきりしちゃった…」
    何が起きてるんだ、今。彼女は何を言ってるんだ。
    しかし更に彼女が言った一言が、俺をより混乱に陥れた。
    「あの従姉の人じゃない?健吾君の好きな人」
    もう何がなんだか。
    俺は彼女の次の言葉を待つしかなかった。
    「見送りに行った時感じたの。あの人に対する健吾君の態度が違う気がしたの。
     何が、というのはうまく言えないけど。あと、目。あの時あの人を見る健吾君の目。
     今、私を見る目と同じだった」

    そんな馬鹿な。
    あんなちょっとの時間で、芽衣子さんは俺の気持ちがわかったと?
    いや、現に当たっているけど、でも、今は!

    俺は芽衣子さんと付き合うことになった日までのことを正直に話した。
    芽衣子さんは黙って聞いてくれた。
    冗談じゃない。
    あれは終わったことなんだ。俺の気持ちはもう…。
    俺は懸命になって芽衣子さんに説明した。
    なんてこと言うんだ。やめてくれ。たのむよ。
    全てぶちまけた俺を見て、芽衣子さんが言った。
    「ごめん。今日は帰らせて」

    俺は彼女を引き止められなかった。家まで送るという俺の申し出は断られた。
    突然ひとりぼっちになった俺は、頭の整理がつかないまま、今夜泊まる予定になっていたホテルへと向かった。
    「お連れ様は?」
    フロント係りが憎たらしい。
    「…後から来ます」
    さっさとキーを受け取り、部屋へ。
    広いなぁ、ダブルって。
    一ヶ月前、知り合いのコネを使って無理してとったこの部屋も、今は何の意味もない。
    だったら泊まらなければよかったのだが、知り合いの顔を潰すわけにはいかなかった。
    眼下にはさっきのベンチが見えた。


    641 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/21(日) 00:37:10.30 ID:dw10+mQ9O
    こんなに惨めなクリスマスは初めてだ。
    ルームサービスで頼んだワインボトルを空けた時、
    フラフラに酔った俺は我慢できなくなって芽衣子さんに電話した。
    出ない。
    諦めて切った5分後、芽衣子さんからメールがきた。

    「まだ冷静になれません。ごめんなさい。明日連絡します」


    携帯を投げつけ、俺は寝た。

    翌朝、フロント係りの顔を見ないようにしながら清算を済ませ、俺はホテルを後にした。
    外は快晴。幸せな夜を過ごしたであろうカップルたちが、楽しげに歩いている。
    気が滅入る。
    本当なら俺も仲間だったのに。
    ファーストフードの店に入り、俺は芽衣子さんからの連絡を待った。
    俺も芽衣子さんも今日は休みをとっていたから、連絡は必ずくる。
    そう信じ、俺は携帯と芽衣子さんからもらったライターを両手に握り締めた。

    一時間後、芽衣子さんからメールがきた。

    「電話だと冷静に話せないと思うのでメールで許してください。
     昨日は本当にごめんなさい。健吾君の気持ちを台無しにしてしまったと反省しています。
     でもずっと気になっていたんです。あの従姉さんのこと。
     あの日は健吾君の目が何を意味しているのかわかっていませんでした。
     でも付き合っていくうちに私を見る健吾君の目があの日と同じ目になっていると感じてきました。
     健吾君の目は優しくて、私を大切に想ってくれていることが伝わってきました。うれしかったです。
     でも同時に、私は従姉さんに対して嫉妬するようになりました」


    すぐに2つ目のメールがきた。

    「私は自分でも嫌になるほど独占欲の強い人間です。
     健吾君が100%、私だけを見てくれていると思えなければ安心できないのです。
     健吾君は昨日、もう従姉さんに気持ちはないと言っていたけど、私はどうしても疑ってしまいます。
     健吾君はあの人とは付き合ったわけじゃないし、何もなかったという言葉も信じているけど、
     でもだからこそ、まだ未練がありませんか?
     今、健吾君があの人を見る目と、私を見る目が同じかどうかはわかりません。
     私は健吾君が大好きです。
     だから、本当の健吾君の気持ちを教えてください」




    642 名前:ローカルルール変更議論中@VIP+ 投稿日:2009/06/21(日) 00:50:28.64 ID:dw10+mQ9O
    ため息が出た。

    何なんだよ一体。
    恵子ちゃんを見る目と芽衣子さんを見る目が同じ?
    そんなこと俺にはわからない。自覚無い。
    ただ恵子ちゃんを見るといつも辛かっただけだ。
    でも芽衣子さんを見るといつも暖かい気持ちになれたんだよ?
    確かに芽衣子さんとは受身で始まったし、
    その時の俺の心の中にはまだ恵子ちゃんへの想いが残っていたとは思う。
    でも今の俺は君との「これから」ばかりを考えてる。
    付き合っていけばそれはもっともっと大きくなって、いつか恵子ちゃんは俺の心からいなくなる。
    そのためにも君に側にいてほしい。それじゃダメなのか?勝手な言い分なのか?

    俺は店を出てひと気の少ない公園に行った。
    そして芽衣子さんに電話をしてありのままの気持ちを伝えた。
    芽衣子さんは言った。
    「少し時間が欲しい」
    もう何だかわからなくなった俺は、東京行きの新幹線に飛び乗った。


    【2】へつづく

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